2011.08

水と人権

< 前号より続き >

インドネシア水道民営会社

ジャカルタ住民にインタビューをした翌日、PALYJAの広報担当者に話を聞きました(調査は2011年2月に行ないました)。水道私営化を懸念しているNGOとのミーティングということで、先方もそれなりの資料を揃えてくれました。PALYJAは1998年よりジャカルタ西部地区で水道事業を運営している民間会社です。もともとはフランスに本部を置くスエズという水企業の子会社でしたが、その後の株式売却により現在はインドネシア国内の企業が大株主となっています。

 

「ここ2〜3年で、水道民営化に対する理解がNGOの間でなされている。水道民営化は必ずしも悪いことではなく、水道普及率を上げたり、貧しい人々へ供給したりと、徐々に改善を続けている。1998年の民営化から数えてすでに13年が経過している。我々の義務は、事業地域において25年以内に100%の水道普及率を達成すること。しかし、さまざまなハンディキャップがある。そのうちの一つが水質だ。

インドネシア水道民営会社

1998年には20万の接続数だったのが、今では40万に増えている。同時に人口増加も起きているので対応するのが難しい。無収水(料金を回収できていない水道水の割合)の比率は2010年12月の時点で42%。1998年には60%だった。
水道管は全長53万キロメートル。このうち、1950年代から使われている古い管は3000キロメートル。これを取り替えるのに膨大な投資が必要だ。マニラのようにすべての水道管を入れ替えるのは難しい。

インドネシア水道民営会社

人々が水道料金を払わずに自分たちで水道を接続し水を得ていることに対しては、警察と協力して取り締まりや法律の適用を行なっている。違法接続は違法な使用者がいるためであり、これは商業的には損失である。一方で、住民組織との対話の場も設けており、KPKMと呼ばれる仕組みで行なっている。水道の使用者とPALYJAが意見交換フォーラムを開催し、苦情や意見を受け付けている。2010年には36回開催された。2011年には毎週開催したい。」 とのことです。

水道事業者による現状分析と、住民の実感は若干のずれがあるようです。料金回収や施設更新などの課題を抱える民間企業にとっては、一人一人の顧客を大切にしなければならないはずなのに、具体的な個人からの訴えには取り組もうとしません。むしろ、違法接続を警察と一緒に取り締まろうとしており、すべての人が清潔で安全な水へアクセスを保障する主体としての意識が欠落しているようでした(※)。

 

日本政府は政府開発援助(ODA)を通じて、また、アジア開発銀行(ADB)という国際開発銀行を通じて、インドネシアをはじめ東南アジア諸国や南米諸国など、多くの「南側」の国に援助を続けています。これらの援助が実際にどのように使われているかのモニターはもちろん、開発や私営化によって現地の人々の生活がどのように影響を受けているかを調査・分析し、それをもとに持続可能な社会に向けた提言活動を今後も続けていかなければなりません。

水

ジャカルタの水道は、民間企業の不透明な契約条項を無効として、再び公営に戻そうという運動が、現地NGOや水道労働組合を中心に開始されています。貴重な資源である水、私たちの生活に欠かせない水をどのように管理していくのかの議論とも絡めて考えていく必要があります。

 

(※)2010年7月、国連総会において「水と衛生設備に対する人権」が決議されました。賛成122カ国、反対0カ国、棄権41カ国で採択され、「生活とすべての人権の十分な享受のために欠かすことのできない人権として、安全で清浄な飲料水と衛生に対する権利を宣言する」、「すべての人にとって、安全で、清潔で、利用可能な、そして、十分な飲料水と衛生を提供する努力の規模を拡大するため、特に開発途上国に対し、国際的な支援及び協力を通じて、財源、人材開発及び技術移転を提供することを、各国及び国際的な機関に求める。」というものです。この決議に対して、日本政府は棄権しました。

2011.08 /報告 : 堀内 葵
(NPO法人 AMネット)