2011.07

水と人権

2011年2月16日から19日にかけて、インドネシア・ ジャカルタ州の水道事業実地調査を実施しました。水問題に取り組む世界各国のNGOが集まる 「Reclaiming Public Water」(公共の水を取り戻す)ネットワークで活動する中で出会ったインドネシアの NGO「アムルタ・インスティテュート」のニラ・アーディアニー氏の協力により実現しました。

インドネシア

ジャカルタ州の水道事業は、1968年に発足した公営上水道事業体であるジャカルタ市水道公社 (PAM JAYA)が担ってきました。PAM JAYAは 発足以来、徐々に給水人口を増やしてはきましたが、インドネシア全体の経済発展と都市への人口集中のために水道普及率は20-30%と低いままで した。


インドネシア

1998年2月、PAM JAYAと民間企業の間で25 年間の事業権委託契約が締結されました。東地区 は、TPJ社(THAMES PAM JAYA)、西地区は、PALYJA社(PAM LYONNAISE JAYA)がそれぞ れ事業権を獲得したのです。契約直後の1998年5月にいわゆるジャカルタ暴動が発生し、スハルト政権が退陣する事態に発展しました。その後に発足した新政権は、スハルト政権による事業権委託契約は無効である、と宣言しました。しかし、契約はそのまま有効となり、ジャカルタ水道公社は東西二つに分けられて私営化されることになりました。

 

ニラ氏およびアムルタは、私営化後のジャカルタ住民への給水状況を調査し、劣悪な環境に置かれ ている人々の実態を明らかにし、不公平な契約内容について是正し、最終的には契約を破棄することをジャカルタ州知事や規制当局に対して提言しています。

インドネシア

本調査では、家屋が密集している区域に住む人々にインタビューを行ないました。水をどこから得ているか、それらの水はどのように使っているか、水道に接続している場合は月当たりの料金はどれくらいか、地下水を使っている場合はどこから汲んでいるか、どのようにして地下水を管理しているか、などを聞き取っていきました。ジャカルタに住む人々が水をどのように利用しているかを調べるためです。

 
請求書を出して水道料金の説明をしてくれる女性

スタティさん(仮名、男性、43歳)、ハルヤニ さん(仮名、女性、41歳)の夫婦はジャカルタ南部に25年前から暮らしています。子どもは4人。スタティさんはホテルの料理人として働いており、インタビューした日は夜シフトのため家にいました。 二人はPALYJAの供給する水道管に接続しています。しかし、「水質は良くない。臭いがする。」と言います。水道管からの水は洗濯や料理に使い、月に200,000ルピア(約2000円)ほど払っているそうです。水道料金は使用量に応じて決まり、毎月10日から15日の間に検針員が来ます。

サーバー

払った後は請求書を大家さんに渡し、自分たちでは記録をつけていないのでこれまでにどのくらい払ったかはわからないとのことです。電気代は月に250,000ルピア(約2500円)ほど。飲料用水にAQUAというウォーターサーバーを月に4本以上購入しています。購入場所は近くのマーケットで、赤ちゃんのミルクや飲み水に使用します。 1本19リットル入りでだいたい12,000ルピア(約1200 円)です。

 

スタティさんと同じ区域に住むカスムラさん(仮名、女性、55歳)は息子が二人います。一人 は同居していて、一人は別の場所で暮らしています。家から10メートルほど離れた場所にある公共ポンプから水を汲み上げて使用しています。

公共ポンプを使って水をくむ女性

利用料は、と尋ねると、「料金は払っていない。いつでも使えるが、水道が止まったときは普段使わない人も使うので、並ばないと行けない。」と答えてくれました。ポンプに何か問題があったときはお金を出しあって修理するそうで、エンジニアに頼むと高くつくため、RT(隣組のような組織)の代表が修理するそうです。このあたりには50人以上が暮らしており、公共ポンプを共同で使用しています。ポンプは1962年に人々によって敷設されました。

公共ポンプを使って水をくむ女性

カスムラさんは1975年からここに暮らしており、井戸の水は洗濯や料理など、ほとんどすべての用途に使っています。トイレも公共のものを使用しているそうです。子どもの頃には水道がなく、その後もずっと公共ポンプを使い続けており、水道に接続したことはない、とのことです。
かつては水道に接続していたが、私営の水道事業の利用を取りやめた男性は、「水が来なくなってからも請求書が送られてきた」と訴えます。会社に訴え出るものの、一向に対応される気配がないそうです。一方でPALYJAは「すべての顧客に高品質の水とサービスを提供するのが我が社のミッション」と謳っています。

< 次号に続く >

2011.07 /報告 : 堀内 葵
(NPO法人 AMネット)