2023.02
水と人権
全国で進む都道府県単位の「水道広域化」
~「奈良県域水道一体化」市民が動いて勝ち取った~
『LIM第99号』(2023年2月発行)より抜粋
2019年施行の水道法改正で「官民連携」と「広域連携」が推進されることとなり、「都道府県は(国の広域連携等の)基本方針に基づき、
水道基盤強化計画を定めることができる」と定められました。
最長で令和16 年度まで10年間の「事業費の1/3の交付金」を目当てに、全国の都道府県で水道広域化が進められています。
都道府県ごとにさまざまな広域化の計画が進んでいますが、およその傾向は「市町村の水源を廃止し、都道府県の余っている水を売る。
市町村の浄水場廃止による更新費用削減がメリット」という計画です。
その中でも、奈良県の計画は広域化で一番進んだ「事業統合」であり、最終ゴールである「水道料金統一」という日本初の取組みです。
事業統合のため、各自治体の水道事業の認可も廃止され、もとに戻すこともできません。
各自治体は、水道のすべての資産は企業団に無償譲渡され、水道の決定権も失います。
高い水道料金の自治体も無理に安い料金に一本化することでキャッシュフローも大きな懸念です。
■市民が勝ち取った、奈良市の一体化離脱
奈良県内で奈良市は、上水道エリアの給水人口3割を占めます。
奈良市が参加しないとなれば、財政シミュレーションも大きく変わり、計画そのもの、他市町村に大きな影響を与えます。
すでに2年前から、市民グループ「奈良市の水道問題を考える市民フォーラム」が発足、活動していました。
4月に講演に呼ばれ、奈良市の離脱無くして他市町村の離脱はないことから、私も中心メンバーに加わることとなりました。
その時の講演テーマは「これは勝てる闘いだ」。
2年間の運動で停滞気味であった当団体は活気づき、私の提案を次々に行動に移しました。
何度も何度も無会派含む、ほぼすべての議員と会い、数十通もの議会への陳情書の提出、市議会議員を招いて
地元公民館などでタウンミーティングの開催、街頭宣伝、地元有力者に連なる「100人委員会」設置。
9/3シンポジウムには約280名が参加しましたが、イベントチラシだけで3万枚もポスティング!その後、
署名はがき付きチラシは5万枚ポスティングし、合計1万筆を超えました。(奈良市人口35万人/17万世帯)
奈良市水道局と市長が説明し、各会派市議・有識者等で議論する市主催の懇談会にも、毎回傍聴しました。
(全5回。延べ213人が傍聴。座長は推進派の近大 浦上拓也氏)
懇談会・議会の議論も慎重意見が主流と変わり、2022年10月上旬、奈良市長の仲川氏は「一体化後の水道料金上昇リスクがある。
奈良市民にメリットがないと判断し、一体化に参加しない」ことを発表しました。
■県を動かした「奈良市離脱」の影響
奈良市の離脱を受け、奈良県は早々に「奈良市不参加でも、計画全体にさほどのマイナス影響はない」とする試算を出しました。
もともと奈良市以外の「すべての市町村の水源を廃止し、県水100%に置き換える」計画でしたが、これ以上の離脱を恐れた県は、
生駒市、大和郡山市の「水源の半分を残す」計画に変更しました。
奈良市が離脱したことで、すでに県水100%の自治体にも動きが出るのではないかと、
県水100%かつ人口の多い橿原市の市議と面談しました。が、政治的に困難だという議員の共通理解は崩せず、
自己水源をもつ自治体(生駒市・大和郡山市)に注力することとなりました。
■自己水源をもつ、生駒市・大和郡山市は?
生駒市では 2022年8月から活動を開始。AMネットも呼びかけ人となって「生駒の水道を考える市民の会」を立ち上げました。
「決定前に、生駒市主催の説明会の開催」を求める請願書には市議22名中6名の賛同を得て、全会一致で可決。
開催方法も水道局と協議し、決定前に民主的に開催されました。(説明会には自治会役員など 117名が参加、
うち67名から計140件の質問・意見提出)
生駒市では多分初めての10通を超える陳情書も出され、約半数の議員と面談し、毎週のように生駒市最大・市役所最寄りの
生駒駅前で街頭宣伝も行い、街頭での反応は私史上初の手ごたえ...! これは勝てる!と思いきや...
どの議員も「水道への愛」がないのです。当然議会での質問もつまらないものばかり...。
市議会がこれでは、勝てるものも勝てません。大阪市や奈良市は、市長が進めた水道民営化を議会が廃案に持ち込んだ経験があります。
同じように生駒市議会に期待を持ちすぎていたと、自分の甘さを痛感しました。
大和郡山市も同様です。2年前「一体化への不参加」を公約に当選した市長は、これまで参加しない想定で協議会も傍聴だけ
だったにもかかわらず、12月急に参加を表明。多くの議員も「水道への愛」がなく、ほとんどの市民が知らないまま、
何もしなければこのまま参加することとなります。
12月、奈良市・葛城市を除く市町村首長が、参加を表明しました。2月に首長が基本協定を締結、
3月に法定協議会設立の議決が市議会で可決されれば、法定協議会へ議論の場は移ります。
つまり3月議決が通ってしまえば、市長を変える以外、一体化への参加を止めることはできません。
市長が参加を表明した今、両市のすべての市議会議員に「一体化に賛成・反対」を問う公開質問状を送付し、
その結果を2・3 月(統一地方選前) にWEB・チラシで市民に周知すべく動いています。
■離脱した奈良市と県に対する働きかけ
「奈良市の水道問題を考える市民フォーラム」メンバーは奈良市離脱を受け、「水道の自治」を考えようと
新たな取り組みを始めています。奈良市に対し、「奈良市の水道に関する協議会設置の要望書」を提出、行政のみならず議員、
労働者、市民を含めた、水道に関するすべての事項を話し合う場の設置等を求め、奈良市水道局長と協議の場を持つことができました。
今回のように、20 を超える市町村が参加する大規模な企業団の民主的な運営は、多くの課題があります。
奈良県に対して情報公開や市議会への事前の情報提供などを求める
「奈良県広域水道企業団設立に向けての要望書」を提出、奈良県水道局長との面談の場を持つことができました。
両協議とも和やかに前向きな意見交換がなされましたが、実際に採用されるのか注視していかねばなりません。
奈良県の企業団設置は2025年。
その間の議論がされる法定協議会を2年間注視できるか、そこまで運動が持つのかは状況次第となります。
また、奈良市以外の市町村で水道一体化に興味関心ある市民に呼びかけ「県民交流会」を開催。
県内の情報共有と協働をはたらきかけています。
■市民が動いて勝ち取ったこと
水の少ない奈良盆地の市町村の水源をほぼすべて廃止する計画であった「奈良県域水道一体化」でしたが、
市民が動いたことで、奈良市・葛城市を離脱させることができました。
また奈良市の離脱により奈良県が譲歩し、生駒市・大和郡山市の水源の約半分をいったん残す計画へと変わりました。
加えて、奈良県広域水道企業団基本計画(案) に「事業の運営は企業団が主体的に公営企業として実施するものであり、
コンセッション事業への移行や民営化は行わない。」と明記されました。
これらはすべて「市民が動いて勝ち取った」結果です。
これにより企業団、つまり奈良県上水道エリアの「水道事業全体の民営化」リスクはほぼ無くすことができました。
但し、大阪市のPFI管路耐震化事業のような切売りの民営化リスク、奈良市の水道事業全体の民営化リスクは、今後も注視が必要です。■
2023.02/文責:武田かおり(AMネット)