2019.11
水と人権
水道法改正後、見えてきた水道のこれから
『 LIM第93号 』 (2019年11月発行)
水道法改正への懸念とポイント
2018年12月改正され、2019年10月施行された改正水道法のポイントは、主にこの3つです。
(1)水道の「基盤強化」を進める。
(2)「広域化」を進める責務を、都道府県が負う。
(3)「官民連携」を進める。
この改正を受け、どのように進められるのか。大阪の事例と併せて、具体的になってきた内容を見ていきたいと思います。
(1)水道の「基盤強化」
今改正では、主に「広域化」と「官民連携」によって、基盤強化を図ると理解できます。
(2)-1「広域化」の「手法」の懸念
「広域化」と言っても、手法・範囲はさまざまです。「資材の共同整備」なのか。「施設を共同設置」するのか。
「維持管理・総務系事務」まで一緒にやるのか。「経営を一体化」もしくは、「経営も事業も統合」するのか。
「何をどこまで広域化するのか」はまちづくりにも関係することであり、県水や自治体の実態に応じて、丁寧な議論が必要です。
そこで、広域化の手法・範囲を「誰がどう決めるのか」が非常に重要になります。
(2)-2「広域化」の「進め方」への懸念
今改正により、広域化を進めるのは都道府県の責務になったことは前述の通りです。
「都道府県は、関係市町村及び水道事業者等の同意を得て、水道基盤強化計画を定めることができる」とされています。
現在大阪では、「副首都推進」の文脈の中で、大阪府知事・大阪市長、2019年8月より堺市長も加わり、
府域全体に関わるさまざまな政策が進められています。「府域一水道」はそのうちの一つのテーマとなり、
「持続可能な府域水道事業の構築に向けた取組み」がまとめられ、下図のように
[1] 大阪府知事・大阪市長・堺市長と事務局が、副首都本部会議で議論を進める
[2] それを受け、総会―ブロック代表の専門家部会―ブロック単位で検討する
となっています。ここには都道府県・市町村の「議会の関与」がなく、各自治体の民主的な判断は3番目となります。
知事と主要自治体で先に決まった内容を、トップダウンで下ろすこの図からは、現場の意見をどうくみ取るのか、規模の小さな自治体が、異を唱えることができるのかも心配です。
例として、香川県の広域化を紹介します。
企業団による広域化が、既成事実化として進み、最終判断であるはずの議会で諮るときには、
すでに「企業団が発足」した後。「県内全自治体の参加」という枠組みであるはずの準備協議会にも関わらず、
各自治体の議会の関与が全くないまま、全県一元化水道開始が決まりました。
加えて、当初参加しないと意思表示した自治体に対し「広域化に参加しなければ、香川用水供給単価を78円から126円になる」と、水道料金が跳ね上がるイメージ図を提示し、
実質的に広域化への参加を強制したのです。(「水はいのちです」自治労連・公営企業評議会 編より要約抜粋)
逆に、広域化がうまくいった事例として、「岩手中部水道企業団」が知られています(北上市・花巻市・紫波町:給水人口約22万人)。
報道等によると、「岩手中部広域水道事業在り方委員会」を設置、3市町の若手・中堅の「職員」が集まり、
一年半かけ自己水源等の現状を、相互理解したうえで広域化の基本構想を打ち出し、各自治体の首長への説得という順番です。
検討委員会には有識者だけでなく各地域住民も入り、住民説明会は59回開催など、現場を重視し丁寧に進めた事が、
成功のカギではないでしょうか。
大阪のスキームはトップダウンであり、岩手での事例とは逆です。広域化による浄水場等のダウンサイジングが必要なことは明らかですが、
香川での事例を見ても、各自治体の判断と全体とのバランスをどうとるのか、そのために、どの範囲で、どう進めるのかが非常に重要です。
(3)官民連携
これまでの民営化は「水道事業全体」を想定し、進められてきました。しかし今回の改正で、浄水施設など「機能的に分割できる範囲」
であれば、運営権の設定が可能、民営化できるようになりました。つまり、下図の通り、経営方針の決定等は行政に残すが、
業務ごとに個別に契約すれば、現場を全て「民営化できる」のです。
大阪市の「水道事業の民営化」は、2017年2月に条例廃案を受け、「事業全体」の民営化はストップしています。
しかし水道法改正を受け、「PFI管路更新促進事業」の実施法案が、2020年2月提出予定です。
そのうえ、大阪市の条例もまだでていないのに、堺市、やがては大阪府域で広げ、管路の耐震化を進めるとしています。
水道管は大阪市水道局で言っても資産の65%を占める、重要資産です。また、管路耐震化は施行路線の現場環境に大きく左右されるため、人手をかければ比例してスピードアップできるものではなく、そもそも、PFIで耐震化が進むのか、大いに疑問です。
また、PFIで民営化されれば、管路耐震化のノウハウを自治体が失うことになります。
官民連携(PPP)の範囲は非常に広く、業務委託からPFI・コンセッション、完全民営化も全て「官民連携」です。
つまり、民営化しない自治体も、職員を減らし民間参入を進めるべし、という意味です。
知事・一部自治体の市長が、都道府県単位の浄水場のダウンサイジングを決め、管路耐震化などの現場は民営化・業務委託。
基盤強化に職員のノウハウは必須ですが、これでは、技術力維持は不可能です。
そもそも水道の基盤強化の手法は「広域化」「官民連携」の2つでしょうか。
本来「公公連携」(公営事業体同士の助け合い)から始め、相互理解を深めたうえで、「広域化」を検討すべきです。
「これ以上、行政は現場を失ってはいけない」。水道に限らず、将来世代のためにも、皆で考え、守らねばなりません。
2019.11/報告 : AMネット事務局