2021.08
私たちの生活とSDGs
住民目線の政治ミュニシパリズム・再公営化
〜ヨーロッパの事例から 開催報告
『LIM第97号』(2021年08月発行)
オンラインで開催した2021年度AMネット会員総会 記念講演(2021年3月6日実施)『ミュニシパリズム・再公営化の動きから、
「大阪都構想」とその後を切る!』より、岸本聡子さんの発表を再構成しました。
フランス地方選挙、左派大躍進!
住民目線の、住民の生活を向上させるための政治が始まっています。
2020年6月フランスの地方選挙で、大きな動きがありました。革新政党が大躍進し、フランス10の大都市のうち、
緑の党の市長が4人誕生、8都市で革新勢力が多数派となりました。
革新勢力の多くは緑と赤の連合(緑の党と社会党などの左派政党)の連合であり、
国政とは違う地方からの勢力をフランス全域で広げています。
フランス第二の都市である、マルセイユもそうです。5つの左派政党が連合し、
5つの市民政治組織と協働し、マルセイユ・スプリング(マルセイユの春)という市民政党が結成されました。
進歩的な土壌があったわけではなく、25年も右派が市政を握っていた地域です。
当然 選挙戦も大接戦で厳しい戦いでした。左派連合への攻撃も激しく、
「左派、キューバ型の共産党」といったレッテル張りをされ、日本と同様に分断された状況で、
直近の世論調査でも緑の党支持、35%、右派30%、極右20%支持という結果がでていた中での、
市民左派政党の勝利は非常に大きいものでした。
緑の党が大きな役割を担ったことは確かですが 環境の政治だけではだめです。緑の党は知識層・高学歴などに
受けいれられますが、そうでない人には遠い存在が多く、それ以外の勢力からの批判の矛先となります。
しかし、今回、気候と社会正義を融合した課題で、左派連合ができました。
政党との連携だけではなく 労働者・個人の市民も入り、政党から離れた市民コレクティブでプラットフォームを
作り、候補者リストを作るところから協働し、戦ったのです。政党でない人をあえて入れていく運動。
ここから参加型政治が始まっています。
再公営化の波が止まらない!
公共サービスの再公営化・脱民営化の世界状況の新しいデータベースができました。
水道・電力・医療・保険・教育・交通・ごみ回収・自治体サービスなど幅広い公共サービスが対象です。
全部で1458件(注:講演時)、どの国でどのサービスが脱民営化・再公営化されたのか、
日々アップデートしているのでぜひ見てください。
https://publicfutures.org/
選挙後の興味深い事例が、第3の都市リオンと77万人都市であるボルドーです。
この2つの都市で2020年12月、水道の再公営化が決まりました。
フランスの大都市で 第2の水道再公営化の波が起こっています。
マルセイユも近年中に変わるでしょう。特にリオンは、1853年以降ヴェオリアとスエズによって
一番最初にフランスで民営化された都市であり、民営化発祥の地です。
以降民営化が続き、長い戦いの末、再公営化される、歴史的にも大きな動きです。
16万人都市グレンノーブル市では、ミュニシパリズムの市政が2期目になっています。
これまでの4年間の実践で、グルノーブルコモンズという市民コレクティブが活動しています。
予算の一部を投資予算の一部を提案と決定ができる、参加型予算の仕組みを使って、住民投票が多く使われ、
公共調達により、地域で作られた食材を学校給食、公的機関の食堂などで生かしていく取り組みが始まっています。
パートナーシップでコモンズを守る
レンヌ市は2014年水道再公営化し、水源まで守る水道行政をやっています。
水源地域の農家と協力し、水源の力を取り戻す農業へと変えていく支援です。
給食だけでなく、地場農産物を示す認定ラベルを作ったり、地域圏のスーパー・小売店に
流通させることができています。市が関与することで、コモンズの取り組みに規模を大きくするとともに、
持続性を作っていくーこれもまさに 再公営化で可能になった事例です
ミュニシパリズムで変わるバルセロナ
スペインはバルセロナ市は、ミュニシパリズムの旗振り役であり、市民政党から始まった市政、
バルセロナコモンズ、今2期目です。車社会のバルセロナでは、都市の中での大気汚染・騒音が問題となっており、
都市空間を新たにデザインする「スーパーブロック」が9個できています。
道は「人が集まる話す、子どもが遊ぶ場所、交流の場」というコンセプトという街づくり。
公園・広場もありますがそれだけでなく、通りそのものが「住民のもの」。
通りの真ん中にプレイグランドを作り、自転車・歩行者が中心です。
あちこちに木や植物を植え、ベンチ・テーブルを置く。店での飲食ではなく、自分たちで飲み物を持ち寄り、
ご飯を食べ、人と話す。
「車を禁止」は難しいですが、「なるべく車が通りにくいデザイン」に変えています。
「スーパーブロック」構想は2016年から始まりました。
当初、小売・観光業の人たちからの強烈な反対はありましたが、
慎重に住民たちと話し合いながら試験的に実施してきました。
車の流れを変えることで空気がきれいになるなど、生活の変化を実感した住民からの支持が広がりました。
参加型で話し合うだけでなく、実感として子供たちが外で遊べることを良いと思う人が増えたのが大きいと思います。
バルセロナ市は、スーパーブロックを今後10年間で500に増やすために40億円かけると最近発表しました。
バルセロナ市にとって大きな投資です。しかし 大阪、万博の費用だけでその数十倍かけています。
長期的な良い影響をどちらが与えられるのか。分かりやすい比較になるでしょう。
エネルギー地域主権
バルセロナ市は、市のエネルギー会社を2018年設立しました。電力の小売り会社から始め、
生産を太陽光パネルなど地域の再エネから電気を購入し、化石燃料・原発由来の民間電力会社から年間
43億円もの契約を解消しました。市庁舎、図書館、市場などすべての建物・街灯・信号の電気をまかなっています。
また、電気料金を払えない世帯が10%以上あり、優先的に利益を上乗せせず提供することで、
電気貧困問題にも対応しています。その結果、たった数年でヨーロッパ一の地域公営エネルギー供給会社に成長し、
投資を差し引いても年間9000万円の節約に成功しました。
節約以上に、地域の主権を確立することは重要なことです。地域の食・エネルギー・水などのコモンズを
地域で生産・管理・地域に還元する政治、これがミュニシパリズムの核になる部分です。
思想・価値・倫理を現実の市政を使って 住民に分かりやすい形で還元する。
住民の参加で、変化を感じられることが大きいでしょう。
地域主権を確立するために
成長・大規模開発こそが成長といったイデオロギーではなく、長期的に市民・環境・地域・労働者を守る政治へ、
都市空間、空気、食と農、エネルギー、地域経済、地域サプライチェーンといったように、
キーワードが変わってきます。持続可能な小さな農業は多くありますが、市が関わることで、規模を作れます。
公共調達によって、持続可能な農業を市政として支えることができるのです。
さらに土地の所有ができれば、さらに強い。こういった手法を「パブリックコモン・パートナーシップ」と
私たちは呼び、公共財を守るためのパートナーシップのやり方として注目しています。
この「アグレリアン・ミュニシパリズム」は新しくできた考え方です。
都市の近郊にある農業地との連携が、実は常に戦略的ではないか。
その都市周辺のオーガニックの農産物を流通させることで、
私たちの地球の裏側から安く持ってきて多くの石油を使った農業であるグローバルシステムから離れるためにも、
地域の経済の独立性、体・仕事食べ物を小さな取り組みは大きな可能性を持っているのではないでしょうか。
水道、エネルギー、食などの公共政策を統合的に行うことで、
相乗的な地域・住民・労働者を守る調整機能を得られます。アウトソーシング・民営化は、
切り刻んで分断する作業ですが、コモンズを守るためには「統合する作業」が必要です。
透明性を高め、市民参画し、地域と労働者の知恵を統合することで、
コストや効率性をどうあげていくか、そのための努力・実践が可能になると考えています。■
2021.08/文責 : AMネット事務局