2020.06
私たちの生活とSDGs
新型コロナ対策に、吉村知事の
“リーダシップ”はどう発揮されたのか
『LIM第95号』(2020年06月発行)より抜粋
吉村洋文 大阪府知事の新型コロナ対策が評価され、人気が上がっています。
しかし吉村知事・松井市長が掲げた重要施策の多くが、プレスリリースすらありません。
つまり「行政として何の準備もないまま、メディアで発表している」ということです。
吉村知事の評価をあげた「大阪方式」とは?
最初のきっかけは3月13日、指定医療機関に入院〜民間のホテルでの宿泊療養等、症状によって患者を分ける「大阪方式」を出したことです。
しかしその後、専門病院をどのように検討したのか。大阪府HPには病院のリストすらなく、検討した形跡も見当たりません。
市長の独断?!コロナ専門病院
4月14日、大阪市立十三市民病院(以降、十三市民病院)をコロナ専門病院にすると、松井市長が発表しました。
大阪方式発表1か月後ようやく1つ目の専門病院であるにもかかわらず、大阪府・市HPには、報道発表資料すら見つかりません。
経緯は「市立病院機構理事長に依頼したところ可能との意見だったので、その場で方針決定した」という松井市長のTwitterで知れるのみです。
職員や患者にとって、「寝耳に水」の発表
十三市民病院をコロナ専門病院にする―。
市民病院機構の理事長に確認したと松井市長は言うものの、当該機構の部長レベルも、当該機構を統括する「大阪市健康局」も、
「十三市民病院」の院長も知らされず、報道資料もありません。
結果、病院への問い合わせが殺到し、現場が対応に追われることとなりました。
十三市民病院は、地域医療の中核病院です。出産間近の妊婦含め分娩の予約ほとんどが、急遽ほかの病院に割り振られました。
地域医療の中核にもかかわらず、救急・外来が休止となり、入院患者も転院・退院となりました。
2つ目のコロナ専門病院(民間病院)は6月中旬の運用予定と、いずれも今回のピークには全く間に合いません。
実は、大阪市には2018年3月末に閉院した住吉市民病院が残っていました。
しかし、十三市民病院をコロナ専門病院にすると発表があった数日後、解体工事が始まったのです。
このタイミングでの解体は適切なのか、本当に全く活用できないのか、検討はきちんとされたのか。
十三市民病院が適切だったのか、さらに疑問が残ります。
知事の独断?! 大阪府の休業要請支援金
4月10日TV出演した吉村知事は、「府単独での休業補償は、現状は出来ない」「広く補償する東京都のような財源がない」といった発言を、
繰り返していました。
しかしわずか5日後、大阪府も休業要請支援金(中小企業100万円、個人事業主50万円支給)を受け付けると吉村知事は発表。
報道発表資料もなく、府庁も大阪市役所も、現場はマスコミ報道で初めて知ったと聞きます。
支援金は歓迎すべきものの、府議会の日程もなく、財政難の大阪府で意思決定はどうなされたのでしょうか。
同時に「大阪府と市町村で1/2ずつ負担」と発表しましたが、報道によると大阪市(=松井市長?)以外は知らされていなかったようです。
最終的に、4月22日大阪府市・町村長会が、協力の申入れをすることで事業は進みましたが、正式な知事からの協力要請は4月23日。
市・町村長会が協力を受け入れた翌日です。
府内市町村は財源のばらつきがあります。各首長・行政・議会の関与もなく、意向すら聞かず、他自治体の大きな財源を使う政策を、
知事が決めてもいいのでしょうか。
「大阪モデル」緑信号になるよう基準を変更
5月5日、吉村知事は緊急事態宣言での休業要請などの解除の判断とする大阪独自の指標「大阪モデル」を発表しました。
「見える化」すると、太陽の塔などをライトアップまでした大阪モデル。しかし5月24日緑信号の基準を維持できないと明らかになった
前日の23日、吉村知事は緑信号が続くよう、基準を変更したのです。この基準変更の意思決定はどうなっていたのか。
開示請求の結果、「吉村知事のトップダウン」だと分かりました。京都大iPS細胞研究所 山中伸弥所長が
「結果を見てから基準を決める。大阪府の対策が、科学から政治に移ったことを意味します」と懸念した通りです。
他都道府県との調整・連携は?
吉村知事は就任以降、「関西広域連合委員会」に出席したことがありませんでした。『関西圏域における新型コロナウイルス感染症への対応』
を議題とした3月に2度開催された委員会も、両日とも「公務なし」にもかかわらず、欠席。4月にようやく、初めて出席しました。
「全国知事会」の出席も、万博決議の一度のみ。9月入学の前向き発言で小池知事とニュースを賑わせた時が、2回目の出席です。
知事会等に参加せず、事前調整もないまま「大阪は経済の中心だから」とマスコミで発表する。他都道府県との連携は大丈夫なのか心配です。
プレスリリースすらないのに、テレビで発表
知事のメディア露出は非常に多く、4月28回、5月は30回超え、Twitter発信も熱心です。
しかし、大阪府HPには「新型コロナウィルス感染症対策サイト」はあるものの、対策サイトのはずが、
府の対策が一見してわかるページはありません。「大阪府新型コロナウイルス対策本部会議」の配布資料や議事次第はありますが、
何が決まり、進捗はどうなのか。議事録もなく、何をやっているかすらわかりません。
前述の重要施策が、大阪府・市HPに報道発表すらないということは、開示請求からも、行政が何も準備もないまま、
知事・市長の一存で発言していることは明らかです。
周辺自治体との調整もなく、行政も知らぬまま、知事・市長が勝手にテレビで伝えていいのでしょうか。
2018年大阪北部地震時、大阪市長だった吉村氏は、「大阪市内の幼・保育所、小・中・高校は、安全確保のため、全て休校にする指示を出した」
とTwitterで発信しました。しかし、そもそも災害時に休校判断をするのは校長であり、市長に権限はありません。
登校中の時刻に起こった地震。児童の安全確認に追われる学校では、吉村氏のTwitterをみた保護者からの問合わせが入り、教育委員会に確認しても分からず、
児童のお迎え、昼食をどうするかなど、教育現場も保護者も振り回される結果となりました。
松井市長が防護服の代わりに集めた雨がっぱも、開示請求の結果、松井氏の思い付きだと判明しました
(実際、約33万着集まった雨合羽は、1か月以上たった今も16万着、行先なく残っています。)
私たちの目に見えづらい行政の中で、このような事態が、日々起こっていると容易に想像できます。
検討すらされていない、思い付きの市民受けしそうなことを発信するのがリーダーシップなのでしょうか。
知事の思い付きの帳尻合わせに忙殺され、行政のポテンシャルを発揮しそこねていないでしょうか。
そもそも市民病院を減らしたのも、保健所の人員削減を進めたのも、「二重行政の無駄」として、公衆衛生(府)・環境科学(市)と、
機能が違う大阪府・市の地方衛生研究所を統合し、独立行政法人化し、これらを成果として宣伝してきたのも、橋下氏以降の維新の党です。
今回のコロナ禍で、国・自治体の役割が再評価される中、「大阪市を廃止」する、2度目の大阪都構想の住民投票を今年11月1日に予定通り行うと、
今も知事・市長は強調しています。
歴史学者 住友陽文氏が先日Twitterで「大阪維新が苦手なのは、ずばり行政そのものなのではないか。
住民がいて、生活をし、(略)病気になれば安心して医療を受けられ、年を取れば福祉がある。
そういう住民という実体のあるものを相手にした日常的な行政のことだ。」と指摘しました。
カジノ・リニアといった“打上花火”は得意でも、行政が苦手な知事が、行政の現場を右往左往させている状況で、市民の生活はよくなるでしょうか。
何を言ったのかではなく、「何をやっているか」を見るべきです。
(AMネットブログに画像等詳細を掲載しました。)
2020.06/報告 : AMネット事務局
(NPO法人 AMネット)