TPP交渉の概況 9月1~10日ベトナム ハノイで主席交渉官会合が、10日もの長期にわたり開かれました。 9月23・24日、甘利大臣・フロマン代表がワシントンで日米閣僚協議を実施。甘利大臣は出発時「これが最後にしなくてはならない」とし、交渉で「切り札」を出しました。それはすでに日豪EPAを超え、聖域を守るとした国会決議を違反する条件と思われます。 しかし報道によると、その切り札の提案を、米国は“本気の提案ではない”とし「自動車部品関税撤廃を撤回する」と逆に脅したとのこと。辛抱強い甘利大臣もさすがに席を立ち、協議は物別れに終わりました。

自動車関連はTPP加入前から日米協議唯一のメリットと言われたものであり、甘利大臣が席を立つのも当然です。中間選挙まで米国が譲歩できないと誰もが分かっている中で切り札をだし、そして今後はそれが最低ラインとして交渉が進んでいく可能性が高くなりました。日米協議は、日本にとって自動車以外、攻めるものがありません。「どこまで譲歩するのか」を交渉するだけでは、交渉力の有無以前の問題です。


TPPシドニー会合

しかし同じ時期、安倍総理は米国で「日本も思い切って、合意に向け貢献していく覚悟」と、まだ妥協できると取られかねない発言をしています。

10月25~27日、シドニーにて5か月ぶりの閣僚会合が開催されました。基本的要素合意をめざしましたが、関税とルール分野で「交渉は大幅に前進した」とする声明を採択するにとどまりました。

 

米国譲歩にご用心?!今後はどうなる TPP? 日米協議の進捗はTPP全体交渉と密接に関係しますが、「終了する見通しは現時点でたってない」としています。 甘利大臣も「年内合意は困難」とする一方、北京で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に合わせ、11月8日TPP閣僚会合の開催が決まり、その上、”首脳会合”も開催される見込みです。 これだけ強気の米国が、中間選挙後にまとめにかかり譲歩し始めるととどうなるか。交渉各国も米国から譲歩を引き出せたとし、一気に交渉が加速する正念場だという懸念も出ています。

「TPPはパッケージ」です。どの国もどこかで譲歩しつつ攻める、全体のバランスを見て、どのカードをいつ切るか、と交渉しています。何度も「合意する」と言いながらも合意できず、前進したポーズだけのようにも見えます。しかし、なにを「政治決断」するのかなど、事務方の論点整理はかなり進んだと感じます。

難航分野、たくさんの論点が残っているものの、事務方の集中協議は継続しており、ある程度まとまれば、政治決断で最後は一気に決まってしまいます。

 

浮上する米国の「承認手続き問題」 米国憲法上、通商に関する権限は大統領ではなく、米国議会にあり、大統領はTPA(貿易促進権限)取得が必要です。しかし現在、TPA法案には多くの議員が反対し、年内に廃案となる見込みです。

<TPAがない場合> 米国政府と合意しても、発効には10以上の委員会と上院下院全てで「施行法案の改正・承認」が必要です。それらの承認を得るために、日本などの交渉相手国への譲歩を米国が求め、再交渉となるリスクが高まります。また、委員会や議会の決議には期間の定めがなく、どれほど時間がかかるのか全く見えません。

<TPAがある場合> 下図の通り、議会は賛成・反対しか採決できません。 しかし、TPAがあったとしても、最近の米国のFTA施行法案は「法案が両議会通過し、大統領署名後も、”相手国の国内法と政策が米国の期待に応えるものに変更された”と大統領が確認するまで通知を保留」することを求めています。つまり「相手国がちゃんとやったと米国が満足してから、米国は発効を認める」のです。2か国中心のFTAとTPPが同じ扱いになるかは不明ですが、その結果、米韓FTAは、署名から発効まで約3年、韓国が大幅に譲歩することとなりました。


TPA有無

画像「なるほど!なっとく!TPPつぼの壺」第3号より


第三世界ネットワークによると「相手国の国内法の変更に、米国側が現地に行って直接参加」した事例まであります。このような「米国の承認手続きは内政干渉だ」と問題視する声が強まっています。

11月4日の中間選挙では、共和党が上下院とも過半数を制すと言われています。そうなれば、共和党が新たなTPA法案を提出し、一気にTPPを成立させるのか、更に強烈な要求をしてくるのか。2015年1月15日暫定予算の期限切れ、2月7日には国債の期限切れと、デフォルト問題が迫り、TPPどころではなくなるのか。2016年大統領選挙をにらんで、よみづらい状況となります。

 

TPP知財テキスト2度目のリーク 知的財産権の交渉テキストが2013年8月に続いてリークされました。ディズニーなどのコンテンツで年間12.5兆円稼ぐ米国にとって非常に重要な「著作権保護期間」、ブランド化農産品等の「地理的表示」、生命にかかわる「医薬品」の論点が残っています。

リークには「特許をもつ企業の同意がないと、販売を認可できない」といった内容があります。懸念した通り、ジェネリック薬へのアクセスが困難となり、国境なき医師団などもTPPに強く反対する所以です。

 

日豪EPAの発効が急がれている。 日豪EPAは2014年4月大筋合意、7月に署名しました。政府は2015年1月発効をめざし、今国会衆議院委員会で承認案が可決されました。 協定に対応するため1年目2年目と年ごとに少しづつ関税率を下げ「冷凍牛肉は18年目に19.5%まで削減(約5割削減)」などと品目ごとに設定されています。初年度は引下げが一番大きいうえ、4月から2年目が始まります。農家が対応する期間すらない中、なぜ急ぐ必要があるのでしょうか。

日豪EPAの国会決議はTPP国会決議のひな形であり、それだけ重大な影響を想定された協定です。しかし「決議は守った」「国内農畜産業への影響は小さい」「特段の予算措置はまだ考えていない」「影響試算は見送る」などと政府の発言はまさに他人事です。

他協定も、2015年度中の大筋合意を目指す日欧EPAは10月に第7回会合が、日中韓FTAは9月に第5回会合が、RCEP(アールセップ:東アジア地域包括的経済連携協定)は8月に第2回閣僚会合がもたれるなど、ぞくぞくとFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)交渉は進んでいます。公共サービスに多大な影響を与えるであろうTiSA(ティサ:新サービス貿易協定)は、アップデートされておらず全く不明です。

 

市民社会の動き 11月上旬、国際共同行動として、米国、豪州、NZで、様々な動きが予定されています。日本では11月7日は院内集会、8日に官邸前アクション拡大版などが企画されています。

TPP違憲訴訟

「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」WEBサイト

「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」もいよいよ発足、原告と会員を集め始めています。AMネットも呼掛け人となり多くの方の賛同をお願いしています。( 詳細はこちら )8月18日大阪府主催TPP政府説明会が開催され私たちも参加、質問しました。11月22~24日には鳥取で「地域と世界がつながるフォーラム」と「市民と政府のTPP意見交換会・全国実行委員会」が開催、11月29日は「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」として、消費地の視点で食を考えるシンポジウム『今の食、当たり前?〜こどもに残したい未来〜』を予定しています。

TPP、日米協議、国家戦略特区などにより、私たちのくらしは大きく破壊されようとしています。まずはTPPを止めることを念頭に置きながら、自由貿易とは何か、経済成長しつづけることは可能か。今の流れに対置する「穏豊(おんぽう)な社会は?」と問いかけ、パズルのピースを集めていきたいと思います。

2014.11/報告 : 武田 かおり
(NPO法人 AMネット)

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