2014.08
TPP/規制緩和
「これが最新情報!TPPと国家戦略特区でどうなる大阪圏」より
『LIM第72号』(2014年08月発行)
17月26日、大阪で「これが最新情報!TPPと国家戦略特区でどうなる大阪圏」が開催されました。 このシンポジウムでは、TPPや国家戦略特区、そして大阪市の水道民営化問題など、私たちの生活に大きな影響を及ぼす出来事について、各スピーカーから話が行われました。 今回、その中から奈須りえさんによる国家戦略特区に関するお話の概要を掲載させて頂きます。
誰のための国家戦略特区?
最近の政治の動きを見ていると、大切な事柄が国会での議論も尽くされないまま、どんどん決められているように思います。特に昨年12月に出来た国家戦略特区法により、国の意思決定のあり方も大きく変わったということが言えます。
本来なら国の制度や法律を変えるには、国会を通さなければなりません。しかし、特区法、ただ一つの法律の成立により事実上、法律を変えなくとも、変えたのと同じ状況をつくり出すことができるようになったのです。
国家戦略特区は地域を特定し、そこで大胆な規制緩和を行い景気を良くしていくことが、目的だと言われています。
しかし、政府の経済政策を記した「日本再興戦略・JAPAN is BACK」を見ると、そこに「国民生活」という言葉は、1回も出てきません。1番目につくのは「投資」で、113回も出てきます。つまり経済政策の最大の関心事は、投資の活性化であって、国民生活は眼中にはないということなのでしょうか?さらに、この特区が良いと評価されれば、特区以外にも広げられます。
本来、法律を変えるときには、国民生活への影響についてきちんと調べた上で、法律をつくったり、変えたりしないといけないのに、その検証もありません。世界で一番ビジネスのしやすい、投資しやすい環境をつくる。そのための規制緩和でしかないのです。
「既得権者」は私たち市民 憲法と法律の間に位置づけられているのが、国と国の約束である条約であり、TPPなどの協定です。ところが、国と国の約束があっても、それぞれの国や社会に、それを適合させるための法律がないと、その実効力が発揮されません。TPPと国家戦略特区は、その方向性が同じものであり、表裏一体の関係と言えます。TPPのための法改正、それが国家戦略特区法なのです。たとえTPP交渉が停滞しても、特区によって規制緩和はどんどん先に進んでいきます。
政府は、今回の特区について「規制緩和の突破口」と言っています。その規制緩和の矛先は、既得権や既得権者に向かっているわけですが、既得権者とはだれを指しているのでしょうか。国家戦略特区ワーキンググループ有識者集中ヒアリングで、「大企業のホワイトカラーは、雇用慣行という既得権で守られている。」「大きくてかたくて崩しにくいのではない。細かいから崩しにくい。」「既得権者はみんな悪党ではなく、ごくごく善良な市民」と話されています。つまり、法に守られた「私たち市民が既得権者」だと言われているのです。
今回の特区で規制緩和の対象になっているものには、医療、介護、保育、雇用、農業、エネルギー、税制など、私たちの生活に密接に関わるものが多く、それがどんどん規制緩和されていくと、私たちの生活や権利が脅かされます。国家戦略特区では、こうした分野で既得権益を取り払うことで投資家により利益が回るようにしていくことが本当の狙いかも知れません。
規制緩和の中身を決める一部の政治家と民間議員
3月に行われた国家戦略特区諮問会議で、東京圏、関西圏、新潟市、養父市、福岡市、沖縄県の6つの特区が決まりました。
特区で具体的にどういう規制緩和をするのかを決めていくのが、それぞれの特区に設けられた区域会議です。この会議には、自治体の長や国会議員に加えて、民間議員と呼ばれる有識者や企業人がメンバーとして入っています。関西圏では、製薬会社の人など直接的に利益にかかわる可能性の強い人も入っています。
一方、福岡の特区で特徴的なのが、外国人労働者の受け入れに関する規制緩和です。アジア諸国に近い九州の福岡は、海外から安い労働力を得ることに最も積極的なように感じます。そして、なぜかこの特区の区域会議に竹中平蔵氏がメンバーに入っています。表向きは有識者となっていますが、竹中氏は人材派遣会社パソナの会長を務めています。
海外からの労働者受け入れに、人材派遣会社が絡んでくるということも十分考えられることなので、ここでも利害関係にある人が規制緩和の中身を決めていくことに関わっている。とてもおかしなことだと思います。
同じく特区に指定された兵庫県の養父市でも気になることがあります。それは、シルバー人材センターでの規制緩和です。
これまでシルバー人材センターでの高齢者の働き方は、ごく限定的なもので、そのために最低賃金などの規制のかからないものとなっていました。しかし、養父市の例では、労働時間の制約も緩和され、結果的に高齢者の労働条件の悪化につながっていく可能性があります。
高齢者が安く使われる社会、さらに外国人労働者もどんどん入ってくる。そういう中で、雇用や賃金はどうなるのか、とても心配です。
知らないうちに進んでいく規制緩和
東京や大阪という大都市圏が特区になるということは、その影響も大きなものになります。今回の特区におけるGDPを足すと、日本全体の4割にも及びます。しかも、規制緩和の対象や中身が一緒なら地域を越えて規制緩和を進められるという「バーチャル特区構想」というものもあります。これでは地域に限定されることなく、何でも出来てしまいます。
特区を推進してきた竹中平蔵氏は、「ミニ独立政府ができた」と言って喜んでいるらしいですが、これは、国会で色々うるさいことを言われずに特区では好きなようにできるということなのでしょう。
一方で竹中氏は、特区について「法律論上は、難しい問題を含んでいる」とも言っています。これが何を意味しているのか定かでありませんが、憲法95条に次のような条文があります。
「1つの地方公共団体のみに適用される特別法は、その地方の住民投票において過半数の同意がなければ、国会でこれを制定することはできない」と書かれています。
本来、法律を作るには、国全体が対象となるのであって、今回のように6つの特区だけを特別な制度の下に置くには、そこの住民の過半数の同意がいるということなのです。はたして今後、住民投票が行われるのでしょうか?
今のところそういった議論すらありません。こういったことも含めて、私たちは今後のゆくえをしっかりと見ていかなくてはいけないと思います。
2014.08/文責 NPO法人 AMネット事務局