「方程式合意」 4月日米首脳会談で日本が妥協した関税交渉が「方程式合意」なるものだとわかってきました。

WTO 反対運動

画像:日農新聞5/22より

「方程式」とは、農産物の重要品目は関税率だけでなく、低関税輸入枠(一定数量内に限り、低税率の関税を適用、超えると高関税の関税を適用、国内生産者保護を図る)、セーフガード(特定品目の急激な輸入増の損害回避のため、関税の賦課又は輸入数量制限を行う)の導入する条件、どのくらいの期間で関税を引き下げるか、などパッケージし、市場開放を行う組み合わせです。 そして、その方程式合意の内容によって、他参加国が交渉カードを切るかどうかが変わってきます。つまり今後の交渉の進展は他国が「カードを切ってもよい」と思える譲歩を日本がするかどうか、とも言えます。

また、方程式合意は「10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めない」という、衆参院農林水産委員会の国会決議違反は明らかです。

 

今後の交渉はどうなる? 11月4日の米国の中間選挙が近づいています。
オバマ民主党の苦戦が予想される中、中間選挙終了までは動けません。 そんな中、オバマ大統領は11月10日のAPEC閣僚会合での大筋合意を狙い、選挙後のわずかな期間で閣僚会議を行い、強引に政治決着するのではないかという予測も流れています。自由貿易推進の共和党が圧倒的多数になれば、情勢はさらに厳しくなると予想されます。 難航分野など1週間では到底終わらないこと、オバマ大統領にTPA(大統領貿易促進権限)がなく成立する見込みもないことから11月合意はこれまでと同様かなり難しい状況です。 しかし、事務方と主席交渉官会合で一気に水面下で進め、決着させる危険も変わらず残っています。

 

そのほかの通商協定の概況

通商協定

日豪EPAは、今年4月大筋合意、この7月に署名しました。オーストラリアは日本の貿易相手国第4位であり、農業大国です。15~18年かけて牛肉の関税率は半減、大部分の農林水産品が即時関税撤廃されます。前号記述の通り、日豪EPAが最低基準とされかねない状況が続いています。しかし、最低基準扱いのこのEPAですら、関税撤廃された品目は多大で、日本の農業が受ける影響は計り知れません。日豪EPAもTPPと同じような国会決議がありますが、決議違反だ、という国会質疑にも政府は回答していません。

日欧EPAも交渉が進んでいます。7月に会合が持たれ2015年度中の大筋合意を閣僚間で確認しました。茂木経産相は「交渉が後半戦に入ったという認識の下、交渉を加速する」と発言。報道によると、EUはチーズ・ワインの関税などの撤廃とJR各社の機材調達の透明化を、日本からは輸入車・電気機器の関税引き下げを要求しており、秋に再交渉予定です。

RCEP(東アジア地域包括的経済連携:アールセップ)も6月・12月に会合が、8月には第2回RCEP閣僚会合が予定され、詳細不明ですが交渉が進んでいます。

 

TiSA/TPP知財の文書がリークされた TPP知的財産権の医薬品秘密文書を米国専門誌がリークし、論点が多く残っていること、各国のリアルな交渉状況が分かりました。

ウィキリークス

TiSA(ティサ:新サービス貿易協定)の条文案も6月ウィキリークスによってリークされました。TiSAはWTO加盟国有志50カ国が参加するサービス協定です。サービス分野は非常に広範で、経済や雇用への影響が多大です。今回明らかになった「金融サービス付帯条項」草稿では、危惧していた通り、金融多国籍企業がより自由に活動しやすくするためのものと分かりました。

 

関係団体の動き 特に6月以降、米国酪農・畜産関係の団体やNZ首相などが相次いで声明や書簡をだしています。「日豪EPAレベルでは受け入れられない」「関税を完全撤廃させよ」「聞き入れないなら日本抜きで交渉を」など日本外しの圧力がかかっています。 これは日米協議の「方程式合意」ですら生ぬるい、農産品関税の完全撤廃を、と日本に迫るものであり、到底容認できません。

そんな中、USTR(米国通商代表部)は、米国の政府調達交渉(公共事業などの分野)への保護方針は変わらないとする声明を発表。自国の保護はそのままで他国に圧力をかける体制がよりあらわとなりました。  

 

市民社会の動き TPPが漂流する可能性は十分に残っています。 しかし、自由貿易や規制緩和を進める動きは米国に関わらず、経団連はじめ日本の多国籍企業が求めており、それを受けて国家戦略特区などの国内政策が進んでいます。特区はまさにTPPの先取りであり、 米国vs日本ではなく、「日本や米国の多国籍企業vs市民」という構図です。

違憲訴訟 準備

山田元大臣、写真:IWJより

「TPPは違憲」だと山田元農林水産大臣が「TPP差し止め訴訟」に向け準備中です。一人でも多くの市民が原告団に加わり声を上げたいと思います。 8月18日、大阪府主催で一般市民参加可のTPP政府説明会が開催されAMネットからも参加します。 11月29日には「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」で大きなシンポジウムを予定しています。

微力な私たち市民がつながり、力を合わせることでここまで来ました。ですがTPPがたとえ漂流したとしても、それでは終わらない長い道が残っています。

2014.08/報告 : 武田 かおり
(NPO法人 AMネット)

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