昨年(2010年)10月に菅内閣がTPPへの参加を検討する、と突然表明しました。大手新聞各社など主たるメディアはこぞって「平成の開国だ!」「TPPに乗り遅れるな!」などと後押しをしていました。そのためか、多くの人がTPP参加は避けて通ることはできないという雰囲気に飲み込まれているようでした。
しかし、次第に各方面からTPP参加に対する批判が噴出し始め、メディアでも少しずつ批判する記事や特集が組まれるようになりました。AMネットもこの議論の行方に注目しながら、学習会を企画し、様々な分野・方面から分析して、日本のTPP参加に対する私たちの主張をホームページに載せようと検討していました。

そんな折り、今回の東日本・東北大震災が発生し、原発事故が起こりました。このため、政府からTPP参加議論を一時棚上げしようとする発言がありました。また、一方では、「この震災からの復興のためTPPに参加すべき」という論調も聞かれました。
私たちは、TPPについて調べれば調べるほど、参加にはメリットはなく、多くの分野で多大な悪影響が出ることを確信するようになりました。

 

TPP≒「日米2カ国間の自由貿易協定」 TPPとは、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-PacificStrategicEconomicPartnershipAgreement)の略称です。参加表明国(シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、 チリ、米国、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、コロンビア)に日本を加えた合計10カ国の実質GDPを見ると、日本と米国で90%を占めることがわかります。

TPP

IMFのHPからTHE JOURNALが作成

つまり、TPPは実質的に日本と米国との自由貿易協定なのです。
2011年1月25日に米国・オバマ大統領が一般教書演説で、「2014年までに米国の輸出を倍増し、国内の雇用をさらに増やしていく」と強調しています。米国がTPPに参加してGDPの小さな国に輸出しても大した影響はないため、明らかに日本への輸出増大を想定していることがわかります。
例外なき関税撤廃は米国にとって好都合というわけです。

 

関係省庁のばらばらな試算 内閣府はTPPに参加した場合のGDPの増加は2.4〜3.2兆円と見積もっています。経済産業省はTPPに参加しない場合、GDPがマイナス10.5兆円になると試算しています。

一方、農林水産省は、TPPに参加した場合の農業及び関連産業はGDPで7.9兆円の減少し、雇用も340万人減少すると試算しています。これだけばらばらな試算が出るということは、自分たちの省益を守るための試算なのでしょう。

 

国益 vs. 農業保護? 日本を開国して国益を守るのか、それとも日本の農業を保護するのか、という議論が先行しています。日本がTPPに参加した結果として国内の農業が壊滅しても、安い農産物を国際市場からさらに大量に輸入すればよいという主張もあります。

しかし、TPPに参加するということは、農業製品にかかる輸入関税を撤廃するというだけでなく、あらゆるサービスに対しても貿易障壁となるものは徹底して排除することを意味します。例えば、政府調達に関して、入札の際に日本語だけの募集では海外からの参加者には障壁とみなされ、英語での募集が強制されるということにもなります。人の移動に関しても、現在の看護士や介護士だけでなく単純労働にまで拡大される可能性もあります。そうなれば、労働環境がさらに低下することが予想されます。

 

MAIの幻が再び TPPに関して、私たちが最も危惧している分野のひとつが投資の自由化です。将来予想される水不足とそれに伴う「水争奪戦」を見据えて、日本各地で水源地の買収がはじまっています。現時点で買収を進めているのは中国資本が多いようですが、TPPに参加すれば米国資本も参入してくるでしょう。


投資の自由化

投資の自由化という問題を考える場合、過去に多国間投資協定(MAI)を巡る問題があったことを思い起こす必要があります。1995年に経済協力開発機構(OECD)で協議が開始された、加盟国間での投資の自由化を推進する協定でした。

このMAIについてNGOが特に問題にしたのは、海外の民間企業が相手国の政府を訴えることができる、というものでした。実例として、北米自由貿易協定(NAFTA)の下でガソリン添加剤(MMT)を製造していた米国のエチル社が、カナダ政府を相手取って訴えを起こし、1000万ドルの賠償金を手にしたことが挙げられます。カナダ政府にとってはガソリン添加剤による健康被害を未然に防止するために国内での使用を禁止したところ、エチル社から「不当に損害を受けた」と訴えられました。これでは政府が自国民を守るための行動が制限されることにつながります。

結局、MAIは、米国資本によって自国の映画産業が食い物にされることを嫌ったフランス政府が1998年に交渉不参加を表明し、OECDでも交渉が頓挫する結果になりました。当時、AMネットも市民フォーラム2001などの団体と一緒にMAI反対キャンペーンに参加し、大阪から東京までキャラバン隊を組み、全国各地で集会を開催しました。

2011.04/報告 : 石中 英司
(NPO法人 AMネット)

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