今年5月に広島でG7サミットが開催される。日本政府が議長国を務めるのは2016年の伊勢志摩サミット以来、7年ぶりである。 ただし、2019年にG20大阪サミットが開催されたため、主要国の首脳が来日して地球規模の課題を議論する機会としては、 比較的短い間隔である。この間、新型コロナウイルスのパンデミック、年を追うごとに甚大化する気候 関連災害、 アフガニスタンでのタリバン政権の成立、ミャンマーにおける軍事クーデター、ロシアによるウクライナ侵略、 そして資源高・物価高による人々の生活不安など、主要国が取り組むべき課題は山積みである。

「具体的な議題」の公表が遅れている
 G7広島サミットの公式ウェブサイトによれば、G7サミットは「世界経済、地域情勢、様々な地球規模課題を始めとする その時々の国際社会における重要な課題について、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有する G7各国の首脳が自由闊 達な意見交換を行い、その成果を文書にまとめ公表」する、とある。 しかし、より具体的な議題は本稿執筆時点(1月下旬)でも明らかにされておらず、1月23日に行われた岸田文雄総理の 施政方針演説において、「力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない」 「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持する」「エネルギー・食料危機や、下振れリスクに直面する世界経済についても、 一致結束した対応を」「対露制裁、対ウクライナ支援」「『核兵器のない世界』に向け、国際的な取組を主導」 「地域情勢、経済安全保障、人権、気候変動、保健、開発といった課題にも広く対 応」などの方針が語られているのみである。

 なお、国際保健分野については、1月21日に公表された英国の医学雑誌『The Lancet』への岸田総理による寄稿において、 (1)公衆衛生危機の ためのグローバルヘルス・アーキテクチャーの強化、 (2)ポスト・コロナの新しい時代に向けたユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進、 (3)デジタル領域 を含むヘルス・イノベーションの促進、に取り組むことが述べられている。

幅広いステークホルダーとの対話
 G7広島サミット首脳会合は 5月19日から21日に開催される。日本政府はすみやかに具体的な議題を公表し、 国内外における議論の活性化を図るべきである。

 というのも、主要国の首脳たちは、幅広い社会のステークホルダー(利害関係者)の意見に耳を傾け、対話を行う「伝統」があるからだ。 G7サミットにおいては、ビジネス(B)、市民社会(C)、労働組合 (L)、科学(S)、シンクタンク(T)、女性(W)、そして若者(Y)の 7つの「エンゲージメント・グループ」と呼ばれる主体が設置され、首脳たちへの政策提言を行なったり、それぞれ独自のサミットを 開催したりしている。

 市民社会によるエンゲージメント・グループである「C7」は、昨年の運営を担ったドイツの市民社会から 日本の市民社会がバトンを引き継ぎ、1月24日にはキックオフ・イベントを開催した。

市民社会の作る政策提言集への議論参加
世界中の市民社会関係者18 名からなる運営 委員会、6つの分野別ワーキンググループ(WG) を設置し、 政策提言書の作成に取り掛かっている。WGで扱うテーマは、「エネルギー・環境正義」、「公正な経済への移行」、 「国際保健」、「人道支援と紛争」、「しなやかで開かれた社会」、そして「核兵器廃絶」である。

 これらの分野での政策提言に関心がある市民社会組織関係者は、C7の公式ウェブサイトから登録をし、 WGでの議論に加わることができる。G7諸国だけではなく、世界中の国々からの参加を奨励している。 WGによる政策提言書をまとめた「C7コミュニケ」を4月に開催予定の「C7サミット」において発表し、 G7議長を務める岸田総理に手渡すことを目指している。

 ただし、C7で用いられる公式言語は英語であるため、日本の市民社会組織にとってはハードルが高いことが予想される。 そのため、筆者が勤務する国際協力NGOセンター(JANIC)は、2022年5月に設立された「G7市民社会コアリション2023」 の幹事団体を他13団体とともに務め、SDGs市民社会ネットワークとともに共同事務局を担い、 日本の市民社会組織へのサミット関連情報の提供や閣僚会 合開催地のNPO/NGOとの情報交換会、 日本政府との対話などを行なっている。

 G7サミット首脳会合および閣僚会合に市民社会の声が反映され、 2030アジェンダ(SDGs)が掲げる「誰ひとり取り残さない社会」の実現に貢献できるよう、 議長国である日本政府を含むG7各国政府に働きかけることを活動目的としている。 2023年1月末現在、団体会員が105団体、個人会員が58名参加している。

首脳会合開催地の広島では
 首脳会合の開催地である広島の市民社会との連携についても紹介したい。 コアリションの幹事として松原裕樹氏(ひろしま NPOセンター専務理事・事務局長)に就任していただき、 C7をはじめとする世界の市民社会による提言活動、日本政府の動向などの情報共有を行なってきた。

 日本ではこれまで、首脳会合の開催に合わせて「市民サミット」が開催されてきており、 2016年の「市民の伊勢志摩サミット」や 2019年の「G20 大阪市民サミット」の運営を担った方々とも意見交換を重ねてきた。 松原氏を含む広島の市民社会関係者5名が呼びかけ人となり、「G7広島サミットへの 対話・提言を通して、 『核のない、誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり』を推進すると共に、 私たち市民社会組織の声を社会化する力を高める」ことを目的として、今年4月15-17日に「G7広島市民サミット(仮称)」の 開催を予定している。 1月から3月にかけて、一般参加も可能な企画ミーティングが行われる。

 世界中の市民社会関係者が参加する「C7サミット」と、広島そして日本の市民社会関係者が中心となる「G7広島市民サミット(仮称)」 をつなぎ、サミットを単なる「おもてなし」や「魅力発信」だけに終わらせず、市民が考える具体的な成果や取り組みを伝える機会と すべく、C7および G7市民社会コアリション2023として準備を進めている。 ぜひ多くの市民社会関係者にこの動きに参加していただきたい。■


● 関連リンク:
G7 広島サミット (公式サイト)
C7 (Civil Society 7 ホームページ 英語)
G7 市民社会コアリション 2023

2023.2/文責:堀内 葵
(AMネット理事、G7 市民社会コアリション 2023 幹事・共同事務局)