2015.04

水と人権

2014年8月24日、貴重な水についてみんなで考えようと、水をテーマに10を超える団体が集まり「みんなの水の文化祭実行委員会」として水の文化祭を開催しました。 今回その中で実施された講演・シンポジウムの内容を報告します。

※当日の講演は、IWJ Independent Web Journal 下記アドレスで動画音声が配信されております。
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/164045


岸本聡子氏(トランスナショナル研究所、オランダ)
「水道再公営化の潮流?英・独ほか世界の水道」
日本で公営水道が機能するのは当然とされるが、海外に目を向けると、決してそうではない。日本の水道事業は世界の「公営」の形態の中でも、稀なほどうまく運営されており、わざわざ「民営化」する必要はない。さらに水道民営化を断行した諸外国では『再公営化』の傾向が見られる。 2010年にパリ市が再公営化 パリ市議会は、水道事業を委託してきた仏民間水道メジャーのスエズとヴェオリアの2社との契約更新を行わないことを決め、今後のパリの水道事業は、市が直接監督する公営事業体が運営していくと発表した。


水民営化

いったん民営化してしまうと、公営に戻すのは難しい。職員の雇用や市民との契約の面などに面倒なことが生じ、契約の途中で破棄すると違約金を支払うことになる。また最近問題になっているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)のISD条項で、莫大な補償金を支払うことにもなる。実際に米アジュリ社に水道事業を委託してきたアルゼンチン(ブエノスアイレス)が「再公営化」に舵を切った際、まさに、その「ISD条項」による訴訟が起き、2006年7月アルゼンチン政府は1億6500万ドルの賠償金をアジュリ社に支払ったと言われる。 英国の実態に目を向けよ 現在、英国の水道事業は民間10社によって営まれる。その最大手「英テムズ・ウォーター社」は株主重視に加え、事業内容が見えにくい中間会社を設置することで納税を回避し、同社の2011年の納付額はゼロだった。さらに水道事業の場合、参入後は独占状態になるため値上げしやすい。民営化後の英国水道料金の高騰については、英国紙ガーディアンが分析的なレポートを発表し、水道各社が市民を軽視した経営姿勢だと断罪している。

事業を民営化する理由として「経済性や管理運営が公営より優れ、適切な競争が消費者に利益をもたらす」と言われている。しかし実際は「欧州の公営水道は、民営化された英国水道会社より安い」のが現実。 また民営化による効率化の指標のひとつ「漏水率」を見ると、英テムズ・ウォーター社が20数%台で、東京水道3%、大阪水道6%というようにパフォーマンスは歴然としている。この差は民間企業には「できるだけ投資を抑えて利益を上げたい」という思惑があり、漏水率を下げようとするインセンティブが弱く、利潤を水道事業に再投資しない現実がある。

つまるところ、水道事業の民営化は公共政策に「市民」と「市民の意見」が民主的にどこまで及ぶのかという「民主主義の根本」に関わっている。多くの先進国での例が示すように、民営化によって水道事業が効率化されることはなく、再公営化せざるを得なかった現実を、大阪市も誠実に受け止める必要がある。私の最も伝えたかったことは「企業の利益最大化」と「公共性」とは相いれることはできない、ということだ。


シンポジウム 【テーマ】水道事業民営化 森山浩行氏、岸本聡子氏、橋本淳司氏、神田浩史氏の4氏の講演を受ける形で、橋本氏の司会で登壇者全員によるディスカッションが行われた。 水循環基本法 岸本氏は、「水が人権である≠ニ水循環基本法に明記されなかったが、水は公的な資源であり財産≠ニ書かれたことに誇りをもつべき、海外から見ると極めて重要な法律である」ことを示した。


水民営化

森山氏からは「法案作成時に水が人権∞水は商品≠ニいう二つの流れがある中、現在の法律との整合性や現場事例を検討したが調整がつかず水が人権∞公水≠ニいう2点が入れることができなかった。水が人権≠ニいうことは非常に大事な観点で、今後の取り組みに必要だ」とした。 また、神田氏からは慣行水利権にも書かれていない、伝統的な地域の水使いルールの問題を示した。橋本氏は、田んぼに水を溜めると地下水が増え涵養しているが、営農目的にしかできず、水利権の正しい使い方になっていないことが示されるなど、水利権や水に関する法律制定の難しさがあぶり出された。 水道事業の形態 会場からの質問「日本には多くの優良企業があるが、そういうところが水道事業を運営するのはどうか?」
岸本氏「いい企業だからとか、上手にできるからということではなく、水道事業の決定は、民主主義の問題ではないか。政策決定と、政策を選択する市民の関与の問題。民間企業に公的なことを任せることで発生する問題に対して敏感であること。市民が知らされること、透明性と情報がポイントになる」と指摘した。
また、公営化と民営化の違いやメリットデメリット、現在の水道事業が置かれている状況などについても話が及び、事業の永続性やその流域にあった事業運営の方向などについても話し合われた。 水の循環、流域 「水循環を次世代に残していく」という水循環基本法の基本理念を前提に、岐阜県揖斐川流域の事例を基に、流域でどういう取り組みができるかが話し合われた。 「流域にある水、食、エネルギー、人を活用していく」「普通の営みの中でされていることを紡いでいく」 「知らないを知るに変える」など、自分たちの手で確保し、守って来たものや流域単位を強調しながらやって行く、流域の中の循環を体系化していく、ということが大事だと締めくくりました。

2015.04/文責:NPO法人 AMネット