2014.02

水と人権

バルセロナ「公共の水を守るための戦略会議」 2013年11月25日(月)、26日(火)にスペイン・バルセロナにて、NGOによる国際会議「公共の水を守るための戦略会議」(原題:Strategic Meeting to Defend Public Water)が開催されました。

バルセロナ

主催したのは、世界中で「水の正義を求める運動」(Water Justice Movement)に関わっているNGO・市民社会組織・コミュニティ組織・労働組合・研究者そして、公営水道事業体の担当者が集まるグローバルなネットワークの「リクレイミング・パブリック・ウォーター・ネットワーク(RPWN)」です。 この会議に、大阪市水道労働組合とともに、AMネットも参加しました。

会議全体を通じた主な論点は以下の3つです。
・水の民営化と商品化に対する抵抗運動を分析する
・公共の水(およびその管理)に関する新たなモデルを構築する
・公公連携(PUPs)、公-コミュニティ連携を広げる

「公公連携(PUPs)」とは「公営水道事業体同士、もしくは公営事業体と地域コミュニティの連携」を意味します(原文:Public-Public Partnerships)。 いわゆる「官民連携(原文:Public-Private Partership / PPP)の対抗概念として、RPWNを中心に、近年、世界中で提案されている取り組みです。

 

ケニアの「社会連携政策」  2日間の国際会議に21カ国から50名が集まり、4つのセッションと戦略作りミーティングとそれぞれの地域での活動状況の報告を行ない、また、地元バルセロナのNGOが中心となり公開イベントも開催されました。各セッションでは世界各地での水道運営事情や再公営化に向けた動きを聞くことができました。  

バルセロナ

例えば、ケニアからの参加者より、首都ナイロビの水道事業体(ナイロビ・ウォーター)が実践している「社会連携政策」によってすべての人々に安価な水を供給していることが紹介されました。
ナイロビでは人口の40%が正式な契約のない不安定な住居に住んでおり、貧しい人々は、ナイロビ・ウォーターと比べて3〜5倍も高い水を、民間の水道供給者から購入しています。 「社会連携政策」の中心的な特徴は、こうしたスラム地域に個別の接続栓を設置することです。
多くの市民にとっては接続料が障害となるため、マイクロクレジット・ファイナンス(貧しい人々を対象とする少額の融資制度のこと)が大きな役割を果たす、とのことです。しかしながら、安定した住居を持たずに日々移動する人々にとっては、個別の接続は不向きであるため、ナイロビ・ウォーターは、前払い制を導入しました。これにより、人々は最も安い料金で清潔な水を入手することができるようになったのです。
しかし、前払い制については議論が分かれ、いくつかのNGOからは疑問の声が寄せられました。こうした状況の背景にあるのが、水セクターへの投資と政府による補助金が常に不足していることです。

 

ベルリン:水は人権である/抵抗運動で「人の手に」 別のセッションでは、公営事業体にとっては財政上の持続可能性が主要な課題である一方で、企業化を目指した改革が進められているため、公営水道企業が民法や会社法のもとで説明責任が果たされないまま運営される事態になっていることも報告されました。

バルセロナ

こうした動きへの抵抗運動として取り上げられたのが、10年以上に渡る民営化の末に、ベルリン政府がすべての株式を民間の水道会社から買い戻した事例です。
これにより、ベルリンの水道会社BWB(Berliner Wasserbetriebe)は、「人々の手」に100%戻りました。ただし、これですべての問題が解決されたわけではありません。ベルリン市民は今後の水道事業対運営に参加型メカニズムを提案しましたが、BWBはその提案を拒否しています。

 

バルセロナ戦略会議総括 戦略会議の総括として、公公連携(PUPs)と公・コミュニティ連携への政治的支援を強化することと、公公連携は官民連携(PPPs)の重要な代替手段であり政治的レベルで支援・推進されるべきであることを、参加者が合意しました。

バルセロナ

後者を進める具体的な行動の例として、欧州委員会に対してアフリカ諸国への公公連携プロジェクト支援の資金スキームを継続するよう提言をすることや、また、インドネシア・ジャカルタ水道の再公営化について公公連携を通じて支援することを共通の具体的優先課題とすることも提案・決定されました。

以上のように、バルセロナでの議論は、どのようにして公営事業体を強化し、人々との連携を強めるか、というものでした。
しかし、このような流れに逆行する政策を発表したのが、AMネットが本拠を置く大阪市です。

 

逆行の大阪市「民営化ありき」 2013年11月11日に大阪市が発表した「水道事業民営化(検討素案)について」(以下、「検討素案」)によれば、 「水道事業の民営化については、公共性を担保しつつ、効率性・発展性が高められ、早期の実現可能性もある方法として、公共施設等運営権制度を活用した上下分離方式を選択し、今年度中に基本方針案(民営化基本プラン案)の策定をめざしていく方針を決定」した、とのことです。

しかし、その詳細説明として添付されている資料は、なぜ大阪市の水道事業を民営化するのか、なぜ海外にまで水道事業に関する技術を輸出し「水ビジネス」に参入するのか、など、肝心な部分の説明が欠落しています。
「検討素案」には、「海外で、新興国を中心に水インフラの整備に関する需要が増大している状況は、日本の水道事業体が持つ高い技術力を『ビジネス』として活かす好機でもあり、従前の自治体経営の殻を破り、市域というエリアのみに縛られない新たな事業展開を行うことが求められる」、 「今後、これらの技術・ノウハウを市域以外の事業展開に活かすことが課題」、 「幅広いビジネス展開に結び付けることが課題」などの文言が並びます。

しかし、これらの事業展開がなぜ必要なのかについては、 「人口減少等による水需要の減少・施設維持更新の時代に転換しつつあるなど、事業環境は大きく変化している」という説明があるだけです。
外部環境の変化や公営事業体の問題に対応するために、まず内部を改革するのではなく、「民営化ありき」の結論であることが伺えます。「民営化のねらい」については「経営の自由度を高め、さらなる効率化の実現と発展性を追求するとともに、将来的な広域化の受け皿となることをめざす」としか書かれておらず、「生活に必要な水を得ることが権利である」という考えは皆無のようです。

バルセロナでの会議においては、このような大阪市水道局の民営化方針について、
・世界各地での民営化・再公営化の具体的事例に照らし合わせると、大阪市の決定は明らかに逆行していること
・ 水道労働者の視点から「公共の水」を24時間365日守ってきたこと
を説明しました。

本号の「LIM」が発行される頃には、大阪市にて「『民営化でどうなる?!私たちの「みず」〜再公営化が世界の潮流〜』というシンポジウムが開催されます。大阪市長選挙とも絡んで、今後、私たちの水をどのように守っていくのか、様々な場で議論が始まっています。

2014.02/報告 : 堀内 葵
(NPO法人 AMネット理事)