2016.04.08

水と人権

大阪の水特集
世界の潮流と逆行する、大阪市水道民営化

会報誌LIM第79号

2016年2月16日、吉村大阪市長は、議案「大阪市水道事業及び工業用水道事業の設置等に関する条例の一部を改正する条例案」を市会に提出し、大阪市水道民営化への議論が再び始まりました。


これまでの経緯概要

2008年、橋下大阪府知事の提案から始まった府市統合協議は2010年に決裂しました。その後2011年、大阪市を除く府内全自治体で作られた「大阪広域水道企業団(=一部事務組合)」が設立。橋下市長のもと大阪市も企業団に入るべく統合協議が進められてきましたが、大阪市会は「市民にメリットがない」と判断し、2013年統合協議は中止となりました。
しかしその直後、大阪市戦略会議で「水道事業の民営化の検討」が発表され、大阪市水道事業の民営化の議論が始まりました。その後、市会の指摘で修正されたものが、今回の「大阪市水道特定運営事業等実施方針(案)」(以降、実施方針案)です。(議案の条例案はPFI(公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間主導で行う手法)設定可能とする内容で、実際の運用は「実施方針案」に記載。)

大まかに言えば、私たちの陳情書の内容はこれらを考慮した、市会での慎重審議と現状分析の要請です。
※陳情書の内容及び記者会見報告はこちらを参照


「実施方針案」の主なポイント

  1. 資産・政策的な責任は大阪市に置いたまま、運営は新設株式会社が行う「上下分離方式による民営化」かつ、改正PFI法による「公共施設等運営権制度」を活用
  2. 設立当初は大阪市100%出資だが、事業開始後3~5年以内を目途に、新設株式会社の株式の一部を民間事業者に対して売却検討
  3. 事業契約期間は30年(但し再延長で最大60年)
  4. 運営会社のチェックのためモニタリング部署を設置(事務系職員20人)
  5. 水道局職員を全て退職させ希望者は運営会社等に転籍(退職金150億円)
  6. 職員約1,600人を委託等で1,000人以下に削減。
  7. 市域水道事業の運営は運営会社(大阪市出資)が、国内外ビジネス展開は子会社・関連会社(運営会社出資、人材確保は運営会社から)が行う。
  8. 30年間で570億円の法人税等の税負担が発生(国と法人税減免措置交渉中)
  9. 経営収支シミュレーション(2015年8月試算)で、法人税を支払っても、30年間で910億円コスト削減が可能(内訳:人件費300億円、公契約手法見直しで設備更新投資300億円、一般会計分担金310億円)
  10. 経営収支シミュレーションの民営の30年後の黒字は4億円、公営では25年間黒字。(現在、年間約100億円黒字)

<(参考)収支シミュレーション 大阪市HPより。民営化(上)しても、赤字に陥る期間は6 年ほどしか違いがなく、問題の先送りでしかないことが分かる>
(参考)収支シミュレーショングラフ


大阪市水道局によれば
  ①管路耐震化のペースアップ(年間最大70`を80`)
  ②水道料金の見直し B民営化による効率アップ
が民営化のメリットとしています。
ここまで概要を見てきました。では私たちは何を懸念しているのか?多すぎて、とても書ききれませんが、陳情内容他、追加記述します。


「水道料金は下がるか」

水道料金等改定について手続きはあるものの、「再協議が不調となった場合、運営権者は市事由による実施契約の解除を行うことができる」、市事由の契約解除には「運営権者の損失相当額を支払う」旨、記載されています。これまでの各国事例から見ても市職員による現場技術喪失後、民間事業者からの料金改定等の要請拒否は実質的に不可能であり、将来の料金高騰につながると考えます。
更に言えば、現在、「大阪市の98%の世帯が給水原価以下の水道料金設定」です。民間会社として「原価割れしたお客様(市民)へのサービス向上」のモチベーションはあがるのか、非常に疑問です。


「公共サービスは狙われている」

 「実施方針案」には、「事業開始後3~5年以内を目途に、新設株式会社の株式の一部を民間事業者に対して売却検討する」旨記載され、将来TPP等国際貿易協定でISDS訴訟(投資家対国家の紛争解決)の対象になりえます。実際、ISDSで料金値上げや契約破棄での提訴事例もあります。
郵政民営化も米国外国貿易障壁書などで、民営化の圧力を受けてきた経緯がありますが、現在TPPでも「越境サービス」として日本のインフラや公共サービスの民営化を示唆しています。TPPのみならずTiSA(新サービス貿易協定)など、今後、どんどん公共サービスが貿易交渉の対象になると予想されます。
また、現在のインフラ投資は、世界的に年金基金などの機関投資家が主流です。いったん民間に放出された株式は制御できません。将来的に、海外の年金基金や機関投資家といった、必ずしも「水道事業の公共性・持続性」に関心を持たない株主が、大阪市水道運営会社の主要株主となる可能性が大いにあります。


「100%大阪市出資のままであればいいのか」

郵政民営化も当初は100%政府保有でした。鳩山政権時、郵政株式売却凍結法案が成立し、いったん民営化にストップがかかったものの、東日本大震災復興財源の名目で「郵政全株式の売却」を目指して上場し、処分が進んでいます。大阪市の水道が、公営から大阪市100%出資の状態に移ればどうなるでしょうか。今「すでに市民の手にある」水道が「民間」にベクトルが向くことになります。市長や市会勢力が変わっても担保できるか、非常に懸念されます。
「法人税は減免されるか」
民営化されれば当然、民間企業として法人税を支払うことになり、市民に還元されません。大阪市は「国家戦略特区を使う」など、国への減免要請を行っています。
しかし「税の公平性」を考えると、大阪市水道の民間事業者だけ優遇できるのか、未来永劫継続できるかを考えると、とても長期的な視点と言えません。(民営化後の日本郵政グループは民間企業と同様の納税義務を負っている)
その他、「運営会社が関連会社・子会社等でブラックボックス化しないか」「委託=効率化なのか」「大阪市水道の技術力は職員のノウハウ。その市民の財産を民間に渡していいのか」「要求水準を作るノウハウを維持できるのか」「上下分離方式は、リスクは行政に、利益は企業にとならないか」「5000`超え配水管の更新は80`でも間に合わない」「シミュレーションでは公営のままでも25年間黒字の優良企業」等々、問うべき論点はまだ多くあります。


私たちの活動

2月3日、吉村市長が全国初の水道民営化条例案を再提出することが、マスコミ報道されました。検討した結果、大阪都構想の住民投票以降つながったメンバーの協力を得て、大阪市会への陳情と、日程調整できた会派(自民・公明)と面談し、私たちの懸念を伝えることができました。また、翔の会さんによる平松元大阪市長との水道民営化をテーマとする対談動画も収録・公開されました。
3月8日大阪市会に陳情書を提出するとともに、AMネットをはじめとする大阪の市民団体合同で、市政記者クラブで記者会見を実施しました(MBS、読売等約10社参加)。
 ※陳情書の内容及び記者会見報告

その後、大阪市会 交通水道委員会において、おおさか維新の会 杉山市議は、私たちの陳情と翔の会動画内容をなぞる反論の質疑が、自民・公明・共産の市議は面談・陳情内容と近い方向性で質疑いただきました。今委員会は地下鉄・バス民営化が中心議題になっていましたが、水道民営化が失敗だったと再公営化が世界中で進んでいること、水道とTPPとの関係性、ブラックボックス化等、これまでの市会での議論と違ったポイントを直接市議に伝え、慎重議論に貢献できたと感じます。
議案は継続審査、私たちの陳情の結果は「不採択」となりました(お維・自民が不採択、公明が引き続き審査、共産が採択)。9月に修正案が市会に提出されると予想し、今後も陳情等活動予定です。年度が替わり委員会の市議が変わります。私たち市民側が現状維持を主張するのではなく「公共サービスとは何か」「今後の大阪の水道のあるべき姿」を提示できればと考えています。■

2016.05/文責:NPO法人 AMネット