地域社会から見たグローバリゼーション

『 LIM第60号 』より (2011年07月発行)

地域社会から見たグローバリゼーション


※本稿は、2011年度パナソニック提供 龍谷講座in大阪「今、国際人材として知っておいてほしいこと〜 社会貢献・国際協力入門講座〜」第1回「地域社会から見たグローバリゼーション」(2011年5月11日) での講演を元に再構成したものです。

※当日の講演は下記アドレスで音声を配信しております。(約1時間30分)
http://rec.seta.ryukoku.ac.jp/panasonic/kiroku/20110511_panasonic_1.mp3


3人に1人が飢餓状態の国・・ 世界の飢餓人口は10億人近くにのぼります。飢餓とは、お腹がすいている状態ではなく、生命の維持が難しい状態。なかには3人に1人が飢餓状態という国があり、ほとんどがアフリカに集中しています。私がタンザニアに居たとき、アフリカの大飢餓の問題がありました。エチオピア、ソマリア、スーダン、マリなどで特に深刻でした。干ばつやバッタの大量発生が原因だとも言われましたが、戦争や商品作物に特化した農業など、人災の側面が強かったのです。


タンザニア

当時のタンザニアは、工業製品がほとんど手に入りません。ガソリン給油に半日並んでも10リットルが関の山。ただ、食料は市場にあふれていました。キリマンジャロは標高差があるので、温帯の野菜から熱帯のモノまで、様々な野菜や果物が市場に並ぶ。東京よりもずっと豊かな食生活で満喫していました。 近接しているエチオピア、ソマリアの飢餓は深刻でしたが、当時のタンザニアは違っていました。教育普及率は9割を超えており、アフリカの奇跡と言われていました。無料の教科書と給食のおかげもあって、子どもたちは学校にはきちんと行っていました。
しかし、今は3人に1人が飢餓状態と言われています。

最近の中東諸国の政変要因の一つは食料価格の高騰です。いかにもインターネットで若者が動き出したと思われていますが、命をかけて立ち上がるのは食べるモノがないから。
もう一つの要因はIMFの介入。 これについては後半のタンザニアの事例で触れます。


講演

一方で、私たちの状況はどうなのか。“先進国”の食料自給率を見てみましょう。アメリカ、フランスはずっと100%以上。ドイツ、西欧8カ国、スイス、イギリスでも日本よりははるかに高い。一方、韓国、日本はずっと右肩下がりです。1994年にぼこっと自給率が下がっている。私たちの社会は食料の6割を海外に依存しています。
穀物の自給率はお米でも95%あります。
しかし、自由貿易のルールのもとで、米は足りているのに輸入しなければなりません。世界では10億人が飢えているのに、日本は輸入させられています。
トウモロコシ、大豆、小麦は9割以上輸入しています。平均すると25%しか穀物自給率がありません。 日本での最大消費はトウモロコシ。人間が直接食べるわけではなく、家畜の飼料になり、それを私たちが食べます。

竹中平蔵氏のような経済学者がよく言うのは、「アフリカの貧しい国は食料しか輸出するものがないので、日本がもっと食料を輸入することは国際貢献である」ということ。ところが、アフリカをはじめ経済力の弱い国々は、自給できていない国が大半。穀物輸入国です。そうした国からすれば、経済大国の日本が穀物を買えば、穀物の値段が上がってしまってより一層、買うのが困難になってしまいます。


ODAでアフリカに水田・・ 冷戦の影響もあります。政府側をある国が支援すると、反対戦力が反政府側を支援します。エチオピアは政府をソ連が支援し、反政府側をアメリカが支援した。ソマリアはその逆。スーダンでは政府がアメリカ、反政府がソ連でした。スーダンの南部独立が承認されましたが、まだ対立は終わっていません。戦争が今日まで続いています。
タンザニアは非同盟中立で社会主義体制だったので内戦とは無縁でした。食料自給率は100%、初等教育普及率は90%以上。


タンザニア

タンザニアに行ったのは、日本のODA(政府開発援助)で水田を造成するためでした。約2000ヘクタールもの大規模な水田です。地元の人たちの主食はメイズというトウモロコシ。工事がちゃんと進むかどうかをチェックするために、日々、村を調べて村の人たちと村を回っていました。
ところが、工事が始まると、村人の怒りが私に向けられました。村人の大事なトウモロコシ畑が潰されだしたためです。私は当然、村人がそのことを知って協力してくれていると思い込んでいました。しかしながら、村人には開発に関する情報が伝えられていませんでした。 工事の途中で私は日本に帰ってしまいました。それ以来訪れていないので、以下のことは、アジア経済研究所の1995年の調査結果に拠っています。


タンザニア

日本のODAでは2000ヘクタールの水田を作るという計画でしたが、実際にできたのは900ヘクタールでした。まず水が足りなかった。タンザニアの降水量は年間700ミリ。大阪は日本で最も少ない地域ですが、それでも1200ミリあります。十分に稲作ができないので大阪ではため池が発達しました。大阪の半分の降水量で、水田を作るのは無理。もちろん地元の人が稲作への転換をいやがったというのもあります。

作った米はどうなっているのか。海外輸出ができないので国内消費に回されます。国内に多く暮らすインド人が買っているとのこと。ということは国内でお金が回ります。円を借りて米を作ったのに、ドルを稼げない。
33億円を借りたのに、円を返せなくなってしまいました。有償資金提供で、10年間据え置き、年利3%、30年返済という条件でした。10年経つと、毎年2億円程度を返済予定。ただし、円で返済しなければなりません。タンザニア通貨シリングでもドルでもだめ。 1985年から急激な円高があり、プラザ合意がありました。据え置き期間の10年の間に、円はドルに対して2.5倍の価値になりました。

初代のニエレレ大統領が退陣して、債務問題を「救済」するとして、1988年からのIMFの介入が始まりました。
IMFが融資条件とした構造調整計画(SAP)では超緊縮財政がなされました。政府による為替介入の禁止。通貨は市場に委ねなければなりません。シリングはドルに対して88分の1までに切り下げられました。その結果、シリング換算で元本が220倍相当になってしまいました。

ニエレレ大統領がこういう言葉を残しています。
「国家に倒産という仕組みがないのは国際法上の失敗だ。」


構造調整計画(SAP) SAPについて説明します。1982年にメキシコ、ブラジル、アルゼンチンが債務危機に陥り、メキシコのデフォルト(債務不履行)が宣言されます。
その前史として、1970年代にオイルマネーが世界中に回り出します。
そこで、IMFがそれらの南米諸国の「救済」に乗り出し、徹底した緊縮財政、為替切り下げ、公務員の削減、公営企業の私営化、補助金の削減を条件に、資金を貸し付けます。これらの条件を構造調整計画(SAP)と呼びます。
タンザニアにもSAPが導入された結果、教育への補助金が削減されました。保健医療の補助金も廃止。国立病院でも、2000年にもなると、白衣がないシーツがない注射がない冷暗所の空調がないのないないづくしになってしまい、病院が病気を治す場よりも患者の病状を悪化させてしまう結果となりました。

そもそも、なぜタンザニアでお米を作ることを選択したのか。建前としては、タンザニア政府が外貨を稼ぐものを求めていたからです。1980年ごろは米の国際価格が高く、なおかつ、主な米の輸入国(イラン、サウジアラビア)がタンザニアから比較的近かったのです。

田畑

ところが、私の勤めていたコンサル会社の本音としては、日本の開発コンサルタントにとっては、欧米のコンサルタントとの競争に有利な品目がお米だったということです。ODAは援助とはいえ、企業にとってビジネスチャンス。今のように住民主体、住民参加が謳われる前の時代です。住民にとって効果の高いトウモロコシの増産にすると欧米コンサルに仕事をとられてしまいます。

世界のお米価格の変遷は、1970年代に一度急騰、80年代初めがピーク。1トンあたり500ドルでした。1982年に米の価格が暴落します。当時は、インド、インドネシアが米の輸入大国だった のが、実態はともかく、1982年に米の輸入は必要ないと宣言しました。米は自給中心の穀物のため、国際市場に流れる量が少なく、他の穀物と比べて価格の乱高下が激しいわけです。
18年前の1993年、日本は大冷夏になり、北東北や北海道で米が不作でした。日本政府は緊急輸入で210万トンの米を輸入しました。多くはタイ、アメリカ、中国からです。政府は日本米とブレンドしてしまい、中途半端に流通させたので100万トンほど余りました。 米の国際価格が高騰したため、イランが最高級米の買い付けを断念します。世界最大の米輸出国のタイがベトナムから緊急輸入。ベトナムから輸入していたフィリピンはビルマから輸入。ビルマの米を輸入していたセネガルというアフリカの西の端の国で飢餓が起こりました。
日本の社会と世界がつながってしまっている、典型的な例です。


自由貿易とTPP 東北震災以前はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)がニュースを賑わしていました。アメリカ、東南アジア、南米も入って自由貿易を推進するというのです。
しかしながら、TPPは大きな問題点があります。農水省の試算では自給率は14%まで下がるそうです。だから日本の農業を守れとJAは言っています。しかし別の観点から見ると、自給率が下がるとどうなるか。1994年の経験を持ち出すまでもなく、さらに世界の食料事情が逼迫し、多くの国で、今以上に食べられなくなっていきます。
日本は田畑がなくて食料を輸入しているわけではありません。田畑を遊ばせて輸入しています。

田畑

日本の田畑は豊かです。肥沃な土地、豊かな水。それを遊ばせているのです。国内の農業を守るという大事な視点もありますがが、それ以上に重要なのは、世界の飢餓・貧困を悪化させないこと。
これは倫理的に考えてもありえない。こうした議論をする人はあまりいないので、言っていかないといけないと思っています。


AMネット神田

TPPの中でもう一つ問題は投資をどうするのか、ということ。投資の自由化を進めると何が起きるのか。
投資を損なうような法律、条例、制度を作った自治体や国を、企業が訴えることができるという条項がNAFTA(北米自由貿易協定)にはあります。これを使って、カナダやメキシコの自治体がアメリカの企業に訴えられ、巨額の賠償金を支払わなければならなかった事例もあります。
TPPでは投資も扱われると言われ、そうなると日本でも同じような問題が起きるかもしれません。住民参加で地域社会に良かれとする条例を作っても、それが仇で税金から海外の企業に賠償金を払わなければならないというようなことが、日本でも起きるかも知れません。

2011.07/報告 : 神田 浩史
(NPO法人 AMネット理事)