自由貿易ってどういうもの? 〜WTOルールから考える〜

『 LIM第60号 』(2011年07月発行)

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自由貿易

現在の世界は「自由貿易を推進し、経済成長を追い求める」という考えが主流です。そうした流れを強固なものにするために、WTO(世界貿易機関)や、国同士の貿易協定であるFTA(自由貿易協定)、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などがあります。 昨年から日本が参加するかどうかが取りざたされているTPPを考える準備として、自由貿易とは何か、そして、その自由貿易を推進してきた国際機関であるWTOとは何かを考えます。 誰にとって自由な貿易? 自由貿易とは、「関税など国家の介入や干渉を排して、生産者や商人が自由に行う貿易」のことです。つまり、関税などの「貿易障壁」をなくし、企業が自由に貿易できるようにしていくということです。

自由貿易の長所として、(1)国際分業と産業特化が進展し、より低コストでの生産が可能となる、(2)消費者は多くの商品やサービスから最も良いものを選択することができる、(3)各企業・個人のニーズに応じた効率的な投資が可能となる、(4)以上から、経済成長に貢献する、などが挙げられます。

 

貿易障壁ってなに? 多くの国は関税などの「貿易障壁」を設けて、自国の産業や消費者を保護しています。「自由貿易を進める」ということは「貿易障壁をなくして いく」ということです。貿易障壁とされる「関税」や「非関税障壁」とはどういう性質をもつのでしょうか。

「関税」とは、モノが国境を越えた時にかかる税金のことであり、輸入品の値段に影響します。関税を高く設定すれば、輸入品の値段が高くなり、国内産業を守ることにつながります。逆に関税を下げれば、安い輸入品が多く出回るため、国内産業が衰退する可能性があります。

多くの途上国では関税が貴重な財源です。そのため、関税を下げた場合、財源を失うとともに、国内産業が育成されないという二重の負担にさらされることもあります。 「非関税障壁」とは、関税以外の貿易障壁です。輸入品の数量規制や輸入に関わる煩雑な手続きや検査の要求、補助金や助成金による保護、環境規制などが挙げられます。エコラベルや農薬に関する基準、害虫の侵入を防ぐための輸入禁止などの検疫措置、自然保護のための自治体の取り組み(使用禁止や削減など)も「非関税障壁」に含まれます。 科学的な根拠に基づかない規制や基準は貿易障壁とされます。例えば、食品の国際安全基準はコーデックス委員会で作られています。WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)によって設置された政府間機関です。消費者にとっては、安心して輸入食品を買うためには統一的な基準が必要です。

一方で、もし基準や規制が国ごとに違えば、生産工程の見直しなどが必要となり、その分、企業にとっては多くのコストがかかります。また、国ごとの事情にきめ細かく対応すれば「貿易障壁」が多くなり、自由貿易推進と逆行することになります。
それゆえ、この基準が「先進国や大企業主導であり、安全性よりも企業の利益が優先されて決められている」と批判されています。そのようにして決まった基準によって「貿易障壁」と判断されるので、「公平で科学的な根拠」を誰がどう決めるのかが問題となります。 どの国も、「非関税障壁を守りつつ、関税率を高くし、輸入品をできるだけ入れずに自国の産業を保護したい。その一方で、輸出先である他国の非関税障壁を無くし、関税率を低くして、自国の企業の輸出をできるだけ増やしたい」という思惑のもとで貿易交渉を行っています。

 

WTO(世界貿易機関)ってなに? 貿易のルールを取りまとめている唯一の国際機関であり、新しいルールも作っています。さらに、そのルールが守られるよう各国に働きかけを行ない、守られない場合には裁定も行います。WTOの前身であるGATT(関税および貿易に関する一般協定)は「貿易障害の軽減」、「無差別原則の適用」といった精神に基づく貿易協定でした。それ を正式な国際機関として継承し、自由貿易を進めているのがWTOです。


自由貿易

WTOの基本原則として、全ての加盟国に対して同じ貿易条件を与える、というものがあります。つまり、加盟国の間で貿易差別をしてはいけません。これを「最恵国待遇」と言います。また、輸入品と国産品を同じように扱わなければならず、不利な扱いをすることはできません(「内国民待遇」)。

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この二つを「無差別原則」と呼びます。また、関税を下げるなど、一度自由化したものを戻すことはできない(「自由化の不可逆性」)といった原則もあります。
こうした無差別原則により、WTOに加盟している国同士は同じ条件で貿易ができます。逆に、加盟していない場合は、その国だけ関税を高く設定されたり、非関税障壁を適用されたりと、貿易が不利になる可能性があります。それを避けるために加盟する国々や、利害関係の同じ国でグループを作ってWTOの中で交渉したほうが有利と判断した国々もあり、現在153もの国や地域(加盟申請中は29)が加盟しています。

WTO協定は国内法よりも優先されます。それほどWTOは強力な権限と拘束力を持つのです。そのため、新しく加盟する国はWTO協定に合わせて国内法を改正しなくてはなりません。新たに加盟する国の多くは途上国なので、そうした国にとっては基準を緩めてでも経済発展をしたいという事情があります。ですが、すでにWTOで厳しい基準が決まっている場合はそれに合わせなければならないのです。

 

WTOでのルールの決まり方 WTOは「一国に一票の投票権がある」とされています。しかし、実際には投票による決定は行なわれず、コンセンサス方式による意思決定がされています。コンセンサス方式とは、「議長がある決定案を採択して良いかどうか提案し、加盟国から異議が出されなければ、議長はその決定案が採択されたと宣言する」というものです。
つまり、決定案に対して反対票を投じなければ、欠席していたとしても賛成とみなされます。しかも、その決定案は影響力のある一部の国々が非公式の会合で集まった交渉で決められており、そうした国々の意向が優先されがちです。交渉に参加できない途上国は強い不満を抱いており、多くのNGOが不透明な意思決定方法の問題点を指摘しています。

 

さまざまな対立と矛盾 自由貿易を推進するWTOへの加盟国も、その交渉分野も増え続けており、世界中の様々な地域・分野で大きな影響が出ています。自由貿易体制のもとでは、国境を越えて活動する多国籍企業であっても、途上国の零細企業であっても、すべての企業と人が、世界中を相手に競争し続けなくてはなりません。そのために過度に競争が進み、結果として資源の浪費や環境破壊、そして、貧富の格差が生まれています。 バーゼル条約(有害廃棄物の越境移動を規制)や京都議定書などの環境条約は、自由貿易の障壁とされる可能性があります。それらの条約とWTOの整合性が明確には決まっておらず、国際的な取り決めであっても守られるとは限りません。


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技術や資金力のある「北側」の先進国企業と、それらを持たない「南側」の途上国企業が「無差別原則」で競争することは、「大人と子どもの試合」と揶揄されることもあります。途上国への特例措置はありますが、その効果は限定的です。自由貿易は南北格差 の問題解決に結びついてはいません。
日本国内でもさまざまな矛盾が生じています。地域の環境保全のためには水田や畑が維持されるべきですが、国の政策として減反が進められ、耕作放棄地が増えています。しかも、国内需要を満たす十分な米が生産されているにも関わらず、WTOのルールのために一定量の米を輸入せざるを得ません。

また、木材が自由化されて輸入材が急増したのをきっかけに、林業は壊滅的な打撃を受けました。手入れが行き届いていない山林が各地に見受けられる一方で、日本は世界最大の木材輸入国でもあります(※林業の衰退の原因については、自由化以外にもさまざまな要因が指摘されています)。 過度の競争によって働く環境が世界中で悪化しています。環境や雇用など、私たちに身近な問題と自由貿易やWTOは大きく関わっているのです。自由貿易が目的としている「経済成長し続ける」ことは可能でしょうか。そしてそれは本当に必要で、人々の幸せと結びつくのでしょうか。

世の中の仕組みはお金の流れ方に大きく影響されます。経済成長が目的化されている現状は、産業革命以降の短い歴史しか持っていません。さまざまな問題や矛盾が頻発している今のシステムは「当たり前」で「仕方ない」のではなく、人間が作ったものであり、だからこそ人間が変えることができます。

自由貿易

地域の特性や性質に応じて、最適な規模で雇用や食料、エネルギーなどの循環を形成していく。そのためには企業だけが中心となるのではなく、自治体やNPO、住民も主体となり、地域で循環できるものは地域で、難しいものは広域化する。「経済成長するため」ではなく、「みんなが幸せになるため」にどうするかといった視点が必要ではないでしょうか。まずは私たち一人一人が経済成長神話を疑い、刷り込みから離れることから始めませんか。

2011.07/報告 : 武田 かおり
(NPO法人 AMネット)

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