2014.08

食と農

農協改革に見る成長戦略の真意

『LIM第72号』(2014年08月発行)

写真

政府の農政改革は民間資本への資産解放か? 政府は6月、農政改革の骨格として、全国約700の地域農協をまとめている「全国農業協同組合中央会(JA全中)」を3〜5年で無くし、組合員農家の農産物集荷や資材共同購入を担っている「全国農業協同組合連合会(JA全農)」の株式会社への転換を示しました。 それは「農業に参入する企業との連携をしやすくし、日本の農業の競争力を高める」「JA全中の役割が終わった」から、とされています。しかしその裏には「協同組合連合会」という、ある意味、農家(個人事業主)が「大資本と対等に競争するための組織を解体する」意図が透けて見えます。

それは競争原理という名のもとに、民間資本の一般企業と協同組合による事業体との違いを無視し、税制をはじめ優遇されている「協同組合の存在そのもの」を「岩盤規制」として指弾しているからです。

協同組合 図

「協同組合」は、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織です。営利を目的とせず、組合員の生産・生活の向上のために自らが出資者・経営参画者となって事業運営に携わると同時に、その事業やサービスを受けるもの、とされています。 そのため事業所得に対して軽減税率が適用されたり、独占禁止法の適用除外を受けるなど優遇されています。

株式会社 図

右図のように、協同組合は本来、地域の生活共同体を基盤とし、自らが事業やサービスを運営し、そのサービス受益、事業収益双方を組合員ひいては地域のために活用されます。一方、民間企業は、事業収益が株主に還元されるだけでなく、利用者はあくまでも「消費者」という位置づけでしかありません。企業が地域で上げた収益から、自治体に税金は納められますが、地域共同体や地域住民に対する貢献度という意味では低いと言わざるを得ません。

 

狙いは「協同組合」という組織体にあるのでは 政府は「中央会制度」や「協同組合連合会」そのものが農業改革の元凶であるかのように指摘しますが、制度や組織の存在は否定されるものではなく、むしろ地域経済の健全化や、中小農家、中小企業が大資本と対抗するために必要です。 また今回農業改革の名のもとに全農に対して、「中央会制度の廃止」や「協同組合連合会の株式会社化」などを迫っています。しかし、「生活協同組合」や「医療福祉協同組合」をはじめとして、多くの協同組合にもこうした組織はあります。つまり、制度や組織を否定的にとらえ、全農の否定が通るなら、他の協同組合連合会も組織として否定されていく可能性があります。

その理由は、民間資本の規模拡大路線が行き詰っていることと関連しています。グローバル企業は市場と投資先を求めて世界中を駆け巡ってきましたが、新たなるフロンティアはもうなく、行き場を失っています。資本にとって、税制や政策で優遇され、競争原理にさらされていない協同組合は格好のマーケットに見えるでしょう。

 

共済という資本家にとってのフロンティア JA全農は生産に必要な農機具や資材、飼料などの共同購入や、生産物の共同販売などを手掛けています。民間であれば独占禁止法違反となるこれらの業務は、株式会社化されればできなくなります。政府はこの規制改革によって農家のやる気と収入がアップするとしています。しかし、市場原理の下で大規模農家と大資本との力の差を考えれば、果たして期待通りになるでしょうか?

また、現在のJA全中やJA全農は、巨大金融機関や大手商社に匹敵する規模です。政府は信用事業や共済事業などの「金融」に属する部門の分離も示唆しています。もしJAの持つ市場シェアが開放されれば、民間資本にとってみれば、巨大な生産市場、流通市場、金融市場が拓けることになります。

中でも「金融」部門は民間資本にとって垂涎の的。JAバンクは約63兆円の資産を持っています。信用事業、共済事業によるこれらの資産を流動させることこそ、今回の政府の狙いと考えられます。

共済

第2次安倍内閣の経済財政諮問会議民間議員を務めた伊藤元重東大教授は「政府が総じて考えていることは、民間投資を喚起する政策。そのためには、膠着した資産を流動化させ、市場に回していく必要がある。」と話しています。民間資本にとって、JAバンクの資産は膠着しているように見えるのでしょう。 また金融については農協に限りません。4大共済と呼ばれる「CO・OP共済」「JA共済」「県民共済」「全労済」の2013年3月末の総資産は、54.7兆円となっており、かんぽ生命の90.5兆円には及ばないものの、全損害保険会社の約2倍もの規模を有しています。 現在TPP交渉でも、公平性を理由に「共済制度の監督官庁を金融庁に一本化させ、優遇制度を廃止すべきだ」という意見が提起されているようです。 しかし共済制度は、協同組合の活動から派生した相互扶助によるサービスです。地域や職場の組合員によるものを、一方的な競争原理で破壊してよいのでしょうか。

JA全中の廃止、金融の分離、JA全農の株式会社化など、いずれも協同組合の原点と地域の中での役割を無視した提案です。

「協同組合」は、組合員の提案と協働によってさまざまな事業が行えます。その活動に賛同し組合員が増えれば、規模も拡大し事業も多様化します。しかしそれは飽くまでも非営利の事業です。地域の利益、生活共同体の利益を最優先するからこそ、生まれた事業に他なりません。こうした事業やサービスを営利優先、株主利益最優先とする民間企業の競争市場に巻き込むことは、地域や生活共同体の破壊につながっていきます。

 

米韓FTAで解体された韓国の共済制度 こうした危惧が、現実となったのが韓国です。 韓国は日本の「制度共済」と同様の業種別協同組合が提供する保険サービスがあり、広く展開されていました。

しかし2007年に締結された米韓自由貿易協定(米韓FTA)により「共済事業に競争上の優位性を提供してはならない、実行可能な限り保険事業と同一の規制を適用しなければならない」と規定され、韓国では2012年3月に新農協法を施行しました。 それにより、「韓国農協中央会」の下に金融持株会社が置かれ、金融持株会社の傘下に「農協銀行」「NH生命保険」「NH損害保険」が設置され、「韓国農業中央会」が担っていた生保事業・損保事業もそれぞれ株式会社になりました。こうして韓国農協共済は民間生命保険会社へと転換させられました。 ことは農協だけに限りません。

市場で大きなシェアを占めている協同組合は大勢あり、私たちの生活と密着した関係にあります。全国中央会を頂点とするJAのピラミッド構造の解体は、政府改革のほんの端緒に過ぎないでしょう。狙いは協同組合という相互扶助組織、地域で協働しようとする人そのものにあると考えられます。  

2014.08/報告 : いしだはじめ
(NPO法人 AMネット)