2013.08

食と農

農家とつながる食卓
〜持続可能な社会への展望〜

『LIM第68号』(2013年08月発行)より抜粋

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「農家とつながる食卓〜持続可能な社会への展望〜」3回シリーズ第1回目が、2013年7月27日、大阪リクレイミングカフェにて開催されました。参加いただいた方の自己紹介から始まり、丹波での農村ボランティアや農地を借りての農業体験、農的な生き方などの話がなごやかに続きました。「農業のことなんて全く。。」と恐縮されている方もおられましたが、じつは田舎のご実家に田畑(山林も!)があったりキッチンガーデンを手がけていらっしゃったり、自宅での料理率もかなり高い様子など、参加いただいたみなさん全員にお話を伺うことができました。

 

農業と「食」と「農」との違い やはり「食」の問題はイコール「農業問題」と考える傾向が見事に現れるなぁと興味深く思いながら、それぞれのご経験や考えについてうかがいました。
その上で、日本の農業や農村が抱える問題、たとえば田舎で荒れている農地や扱いかねている山林、そして高齢化が進む農業者について、農業問題も深刻なこともお話ししました。 「農業問題」は次回のお楽しみとし、私はむしろ農場を離れた後の集荷・加工・流通・販売、そして消費されて健康につながる「食」の部分に注目していること、その過程で「農業」の外からも大きなパワーが働き、その結果、環境破壊が激しくなり、社会不正義が起こっていること、そんなフードシステムの現状についてお話しました。

加えて、アグリビジネスを含めた生計を支えるため(儲けのため)に売るための農産物を生産する「農業」と、自分や家族が食べる食べものを育てる「農」や「農の営み」の違いも紹介しました。二者の間にはグレーゾーンがあるとはいえ、大規模単一栽培で「商品(コモディティー)」としての農産物を生産する農業(アグリビジネス)と、家庭菜園やキッチンガーデンで自らの食べものを育てる農の営みとは違うこと、そのような「農」は参加者の多くもすでに実践されていることをお話ししました。食のことを「農業問題」と人ごととせず、少しでも自分のことと近づけて感じていただける機会になれば幸いです。

 

世界のフードシステム3不思議とその背景

ハンバーガー

「食」の世界が今どうなっているのか、フードシステムの3不思議をお話しました。第1に、10億人が飢えている一方で十数億人が太りすぎや肥満で苦しむ不思議な世界。しかも野菜1個よりバーガー2個の方が安く「貧困=肥満」と社会的弱者の方が不健康に陥りやすいフードシステム。
第2に、増加する世界人口を養うために農業のさらなる大規模化や近代化が必要と叫びながら、一方では実際に人々を養ってきた農民たちを毎年5,000万人も失業に追い込み、飢餓人口の7割ほどは農民だという不思議。

第3に、食料の増産を叫びながら、世界で生産された食物の3分の一を食べることなくムダにし、しかもその生産のためにつぎ込まれたエネルギーや貴重な淡水資源も併せてムダにし、不必要な地球温暖化ガスを発生させている不思議。

その背景には、穀物の世界貿易の8割だか9割だかを4〜5社がコントロールしている世界があります。生産者や消費者は多数いても、川上から川下の途中で、つまり生産から加工・流通・販売などある段階で数社が市場の大部分を寡占するという「砂時計モデル」が、大豆や小麦、コーヒー、バナナなど、いろんな食の世界で強まっていること。規模の大小だけでなく、国家や国際機関に自分たちの都合を優遇させながらグローバルな事業を展開するアグリフードビジネスと、地域の小さな農民とが、非常に不平等な「自由貿易」の競技場で競争しろといわれているものだとイラスト入りでお話しました。

 

2種類のディナーの提供 食事中「農家とつながる」接点である今日の食材を紹介しました。京都・京北の「耕し歌ふぁーむ」からは、山里のおすそわけ夏野菜が。シュタイナーの弟子が選抜を重ねたというミニトマトは冷水に浸したそのままで。甘み豊かで皮の柔らかいドイツの伝統品種の中玉トマトは軽くドレッシングであえて。イタリアやスペインの伝統品種のナスとズッキーニは揚げて。賀茂ナスは揚げたあと煮浸しにして。そしてAMネット会員が農業ボランティアをしている丹波市の農場からのジャガイモとタマネギはスープでもてなされました。

なす

夏野菜の品種がめずらしいということより、スーパーに行ったら「ナス」は「ナス」一種類しかないこと。おいしさや栄養価より、皮が厚いとか、形がまっすぐとか、流通や販売する側の都合に併せた限られた品種が大量生産され、「生物多様性」が失われており、伝統種・固定種を育てる大切さをお話しました。  京北と丹波からのお野菜とおにぎりがあっという間に消えた後、お店でご用意いただいた鶏肉の唐揚げや焼いたウィンナーなど、ディナー第2弾を提供いただきました。サラダ野菜と一緒でありながら、2種類のディナーの違いに気がついていただけたでしょうか。

 

食をめぐるそれぞれの思い 数百年の時をかけて「食の外部化」が進んできたこと。つまり、まずは裏庭の畑から食卓に直結していた食生活から、都市における賃労生活に移る過程で農業生産が外部化されたこと。食品産業の発達とともに加工食品や外食・中食が増えて料理や加工も外部化されたこと。今や、栄養士が設計したメニューの食材を家庭に配達するサービスなど「何を食べるか考える」ことも外部化されています。料理「なんかに」手間暇かけるより「安く早くそこそこおいしく」お腹を満たす生活は、生産者はいうまでもなく、消費者もハッピーに暮らせるでしょうか?メタボが目の前にちらつく年齢層のみなさんに、WHOや各国政府が無視できなくなった「食生活由来の非感染性疾患」、つまり食生活が大きな要因の一つである生活習慣病の増加についてお話しました。

米国ほど肥満問題が酷くないとはいえ、長寿で有名な日本の沖縄でも、高齢のおばあちゃんは元気でも、中高年の男性がかえって早死にしている「逆仏」現象など、日本人もメタボや生活習慣病から無縁ではありません。また、私たちは世界の農産物輸入大国です。日本の消費者がアグリフードビジネスのお得意様でありつづけるか否か、大きな影響力を持っています。  

 

それでも、手を伸ばせば、畑とつながることができる 私たちの身と心を育てるまともな食べものをこれからもずっと手に入れるためには、まともな食べものを育ててくれている小さな農家を支える必要があります。日本はまだラッキーな国で、少し手を伸ばせば畑につながることが出来ます。食や農から切り離され、自らの食を企業任せにするのではなく、植木鉢一つや家庭菜園から「農」につながり、毎日の食卓を農家につなげることが、地域と世界を変えていくことにつながると考えています。

2013.08/報告 : 平賀緑
(食料政策研究家/NPO法人 AMネット)