2012.11

食と農

日本の食料自給率は39%ですが、農水省が発表している「都道府県別自給率」で大阪府は2%と極めて低い値になっています。この他、東京都は1%、神奈川県も2%と日本の三大都市圏と言われるところで低いことが特徴です。 そんな場所に住む私たちが普段食べものを手に入れる手段に、スーパーマーケットがあります。お米や野菜は「生産者」から「JA(農協)」に集められ、「市場」に出荷されます。市場では「荷受会社」が始めに買い、「仲卸」業者を経由して「小売業者(販売店)」に並びます。

消費者が、一般的な小売店で手に入れることのできる情報と言えば「産地」と「価格」くらいですが、このルートをさかのぼっていくと、仲卸では年間の予定出荷数量や今年の産地動向が、荷受会社では仲卸よりも具体的な産地情報、例えば品種選定に関する部分や大まかな作付面積の増減などもわかるようになります。農協まで行けばより細かく産地の小地域、生産者一人ひとりと向き合うことになりますし、生産者個人になればどんな肥料・農薬をいつ、どのくらい使ったかはもちろん、いつ芽が出て、花が咲いて、実が付いたかも知っています。その作物が育つ風景も、そこで生まれる生きものも知ることができます。一方生産者は、農協から「価格と市場の情報」が入る程度で、自分の育てた農作物がどんな人たちに食べてもらっているのかはわかりません。

自給自足

こうした消費者と生産者の「情報の分断」によって、自分で値段が決められないための生産者の経営不安定化や、消費者の声が聞こえないことに起因する後継者不足にも繋がっています。反対に消費者にとっても、どのように作られたのかが不明だと、モノの価値が分からず「食卓における物語性」が失われるといった問題があります。
そんな不安定な食に囲まれた私たちは、「自給」を再考すべきときにきているのではないでしょうか。もちろんすべてを自分で作る、というのではなく、ベランダ菜園をしたり農家の一部の農作業に参加したり、あるいは信頼できる農家と直接やりとりをして買う、ということも広く見れば「自給」の一部です。そのような視点で「自給」を考えると、それはすなわち「自分の手に取り戻すこと」であり、「リスクをシェアすること」ではないでしょうか。そしてそれは食べ物だけでなく、エネルギーやおカネについても進めていくことが大切です。

 

農村ボランティアの体験談(若間泰徳) 全国的に中山間地域の農山村は、過疎化・高齢化が進んでおり、農作業や集落の共同活動を続けていくことが困難なところが増えています。そうした中、自治体やNPOなどで農山村の活性化に向けた事業を行うところも少なくありません。兵庫県では都市部住民を「農村ボランティア会員」、受入集落を「ふるさと村」として登録・支援し、農山村の活性化に向けた取り組みを行っています。

農村風景

現在、県内にはこうした受入集落が40箇所ほどあり、そのうちの1つである丹波市の「ふるさと笛路村」というところに農村ボランティアとして3年ほど前から参加しています。ここでは毎月、集落の人たちといっしょに共同農場や村の共有地の整備などを行ったり、それとは別に、耕作放棄地を借りて都市部からの参加者がそれぞれに農産物を作ったりしています。定期的に村の人と顔を合わせ、いっしょに農作業などをし、農業や農産物、そして農山村への理解を深める貴重な場となっています。

今は、お金さえ払えば手軽にいろんな食材・食品が手に入る時代ですが、そのようなことは長い歴史の中で決して恒久的に続いてきたものでも、またこれからも安定して続いていくという保証もありません。お金に依存するような現代社会の中で、これまであった関係性が薄れ、共同体や社会そのものが崩れていく、そんな時代を生きている私たちにとって、生命の糧である食を他人任せ、お金任せにし続けるというのは、何とも心許ない気がします。

 

岡山県真庭市のバイオマスタウンへの取り組み(原田智子) 私の実家のある真庭(まにわ)市は岡山県北部の鳥取県との県境に位置しています。人口約53,000人、面積828km2(森林面積653km2 約80%/うち人工林60%)、面積は県下最大で、酪農、畜産、林業、農業、観光が主な産業です。
バイオマスタウンへの取り組みは、1993年地元企業家と市民で始めた「21世紀の真庭塾」という勉強会から始まりました。市民が主体となって考えた「循環型地域社会の創造」をテーマに、民間企業が事業主体、市が調整役(2001年〜)とする協働により推進してきました。2006年に公表したバイオマスタウン構想とは、バイオマスの発生から利用まで総合的利活用システムを構築する市町村等が作成する構想です。

現在真庭市では、市全体のエネルギー需要量の11%を木質系燃料で供給するまでになりました(原油換算で、約1,5000KL《250Lドラム缶6万本分》、CO2の削減効果40,000t/年)。その他にも、温泉街では旅館から回収された廃食用油を利用した15台のバイオディーゼル車(100%EDF)が旅館の送迎車や公共サービスに利用され、家畜排泄物や食品廃棄物は堆肥として農家で利用されています。
また、これまでのバイオマスではエネルギー活用が中心でしたが、軽量で保水性の高い木片コンクリート、木質プラスチックの開発、牛ふんとおが粉から作る堆肥など多様なバイオマスを製品化(原料としての活用)にも取り組んでいます。2010年には「真庭バイオマスラボ」を立ち上げ、研究開発、人材育成も図っています。

 

グローバル経済へのオルタナティブとしての自給的暮らしの取り組み 国際NGOに関わる人々が国内外で農に携わる動きが、この20年活発化しています。特に海外で日本の豊かさや技術を伝えに行った人々が逆に日本のあり方に疑問を持ち、日本の農山村や地方に移住し自給的な暮らしを実践する人々が増えています。自分もこの現象の端っこにいると感じていますが、ここでポイントとなるのが「自給」というキーワードです。

現在のグローバル経済は、残念ながら小さな政府やグローバル多国籍企業の跋扈といった新自由主義路線で進行し、20世紀型の資源浪費=経済成長優先型経済のモデルが悪い形で展開しています。対して脱成長路線の動きも出始めていますが、そこでの具体的な実践モデルはいまだ見えにくい状況です。後者のモデルを考える上でのキーワードもまた「自給」だと言えます。

言い切ってしまえば、「自給」とは既存の消費社会やグローバル経済を相対化し、未来へのオルタナティブ的な実践そのものです。それはなぜか? 既存の経済成長路線は、生活の全てを経済財=商品に分け市民を徹底的に消費者に落としこむ路線を取ってきました。経済がグローバル化する中で、自分たちが消費する生活材が、食料も含めてどこから来ているか全くわからなくなりました。作る喜びや食べる喜びどころか、生きる悦びすら消費するようになってしまいました。
そうした現状の中で、食べものを作りエネルギーを自ら給うことは、実はグローバル経済に対抗するためのしたたかな戦略となりつつあります。今の消費者はグローバルな裸の王様にされていますが、来るべき未来の市民社会は「自給」をキーワードに暮らしを見つめなおしていくことが求められています。

2012.11/報告 : 松平尚也 澤口敬太
(NPO法人 AMネット)